
「仮面ライダー」誕生45年を祝い、私の手元にある放送当時の関連書籍をご紹介していくシリーズの第2弾。本日は放送開始の4月3日当日ということもありますので、もっともレア度の高い逸品をお目にかけましょう。


『仮面ライダー図鑑 たのしい幼稚園新案カード』(講談社)

「図鑑」と題されてはいますが、「新案カード」と添え書きがあるように、中身は全32枚のカードです(寸法は125×180mm)。

発行日は1971年8月28日。前回紹介した『仮面ライダー怪人大画報』よりも2ヵ月弱あとで、一文字ライダーの変身ポーズも定着し、人気に火が点きつつあった時期のものといえます。

前回も書いたように、「仮面ライダー」放送開始当時、私は小学2年生でした。小学2年生といえば、もうそれなりの自意識を備えています。実年齢よりも上に見られることを望むお年頃です。そんな8歳の少年にとって、「たのしい幼稚園」などと印刷された図鑑を本屋のカウンターに持っていくのは、かなりの屈辱感をともなう行為でしたが、それでも購入したのは、このカードのイラストに、不思議な魅力を感じたからです。60年代に一世を風靡した梶田達二や前村教綱といった怪獣絵師の写実的な表現とは違う、もう少し「アート(作品)」に近い感じといえばいいのでしょうか。そして、どうやらそれは思い込みではなかったようです(それについては後述します)。




どれもかっこいいです。かつての怪獣絵師たちの絵は、ほとんどが写真を元にしていたため、ポーズが限定されていましたが、こちらはもっと自由度が高いように思います。




背景の色や構図も、怪人のことをよくわかっている人が描いたように見受けられます。
本当はすべてをこのサイズでお見せしたいのですが、そうわけにもいかないので、以下はサムネイルで。
さて、このカード図鑑には3通りの怪人が収載されています。
1)テレビに登場した怪人

カード32枚のうち、24枚までがこれに該当します。ですが、ピラザウルス以降は名前が微妙に違っているものが多くなり…
ヒトデライラ → ヒトデンジャー
カニバブル → カニバブラー
ピラニドン → アマゾニア
ムササビおとこ → ムササビードル
アリジゴク → 地獄サンダー
どくクラゲおとこ → クラゲダール
イソギンチャーゲル → イソギンチャック
という具合(左がカード、右が正式の名称)。これは、台本での呼称を使ったためだと思われます。このカードが実際に店頭に並んだのは8月中旬ごろだと思われますが、入稿はそのひと月くらい前でしょうから、ヒトデンジャーやカニバブラーの回はまだ完成していなかったのでしょう。そして、前回も書いたとおり、やはり制作が早かったキノコモルグは正式な名前になっています。もっとも、あきらかに制作前だったと思われるアルマジロングも、デザイン、名称ともに正確なものになっていますが…。なお、最後のイソギンチャーゲルについては、石森章太郎の原作漫画「海魔の里」に出てきたイソギンチャク怪人のアレンジのようで、実際のイソギンチャックとはかなり容姿が異なりますが、一応「原型」であると判断しました。
2)テレビに登場した怪人と同じモチーフだが、明らかに別デザインなもの

カミキリむし → カミキリキッド
サメおとこ → ギリザメス
どくバラおんな → バラランガ
という解釈も成り立つと思いますが、どれもフォルムが違いすぎます。実際の怪人とオリジナルの中間という位置づけでしょうか。
3)テレビに登場しない怪人(完全オリジナル)

マクロファンデス、ヒドラーゲン、タコおとこ、ワニおとこの4体。マクロファンデスはユニコルノスの原型だろうと長い間思っていたのですが、実は同じ「たのしい幼稚園新案カード」の『図鑑 ぼくらの仮面ライダー』に「いっかくじゅうおとこ」という怪人が掲載されているのを最近知り、どうみてもこっちが原型だろう、と判断した次第です。これらオリジナルデザインの怪人たちも、なかなか魅力的です。

さて、これらの独自性あふれるイラストは、一体誰の筆によるものでしょうか。奥付けを見ても画家の名前はありません。しかし、私はこれを描いたのは、実際に「仮面ライダー」の美術を担当していた高橋章氏ではないかと推測しています。以下、そう考える理由をいくつか提示していきましょう。
まず、こちらをご覧下さい。


上の2点は、第11話「吸血怪人ゲバコンドル」の冒頭シーンで、ショッカー基地内の壁面に飾られていた怪人の肖像(遺影?)です。怪人のデザインや造形、基地壁面の装飾画など、美術関連物の制作は、当時、高橋章氏が一手に引き受けていたということですから、これらの肖像も、おそらく高橋氏の手になるものでしょう。この劇中画と今回のカード、色使いといいタッチといい、よく似ていませんか?(特にさそり男の顔に注目して見て下さい)

まだあります。

こちらは、第23話「空飛ぶ怪人ムササビードル」の基地内のシーンです。手前に立つムササビードルは、ゆるキャラを思わせる愛嬌のある顔立ちですが、その背後の壁画のムササビは目が釣り上がり、異様な迫力です。ムササビおとこの表情にも同じような鋭さを感じませんか?

さらにもうひとつ。下の左は雑誌に掲載されていたクラゲダールのデザイン画ですが、右のどくクラゲおとこのイラストにそっくりだと思いませんか?


私の推測が正しければ、この『仮面ライダー図鑑』収載のイラストは、「仮面ライダー」本編の美術や造形を担当していたデザイナー本人の筆によるものということになり、例えて言えば、「ウルトラマン」の美術デザイナーだった成田亨氏の描いたウルトラマンや怪獣のイラストと同等の価値を持つものということになります。もしそうなら、ちょっとすごいことだと思うのですが…。
――などと書き綴っているうちに、すっかり日も暮れてしまいました。45年前の放送開始時間の19時半まであとわずかです。久しぶりに第1話「怪奇蜘蛛男」を見てみるとしましょうか(時間に合わせて視聴する愛好家の方がかなりいるんだろうなあ…)。
