2016年09月01日

幻の「かんごく島」(1)

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去年の今ごろ、『週刊ぼくらマガジン』に短期連載されていた、知られざるフジオ・プロ作品「ド超人ド3匹!」(1970年)のことをこちらに書いたところ、それなりの反応があったので、今回は、ほぼ同じ時期に同誌に連載され、やはりネットで検索しても情報がほとんどつかめない幻のトラウマ漫画「かんごく島」を取り上げてみたい。

2016年9月1日現在、「かんごく島」のキーワードで検索してみると、上がってくるサイトや画像は「監獄島」という映画に関するものばかりで、唯一情報が記載されているのがこちら

「昔『ぼくらマガジン』で、孤島の連続殺人のマンガがあったのですが、タイトルを思い出せません。どなたかご存知ないでしょうか。ちょうどクリスティの『そして誰もいなくなった』のようなストーリーだったのですが。一人殺される度に登場人物欄が黒枠で囲まれるのが印象的でした」という質問に対して、それは「かんごく島」ではないかという回答が書き込まれている。さらに、最近になってコメント欄にあらすじを書き足した方もいらっしゃるのだが、残念なことに、いささかディテールが違っている。当時はそれなりの数の少年少女がドキドキしながらページをめくった作品のはずなのに、これではいくらなんでも淋しすぎるではないか。

実はこの「かんごく島」は、私にとって大変思い入れの深いマンガで、これを全部読むために、わざわざ国会図書館に出向き、半日がかりでコピーを取ったというほどの作品なのである(今から7〜8年前のこと)。そのころは、何とかこれを映像化できないだろうか、などと半分本気で考えており、とあるビデオメーカーのプロデューサーに相談を持ちかけたこともある。結局その企画は実現しなかったが、それくらい忘れがたいマンガなのだ。というわけで、リアルタイムで読んでいた小学校1年生当時の心のときめきを蘇らせつつ、内容を紹介していきたい。

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『週刊ぼくらマガジン』1970年35号〜46号掲載。全12回。
原作:生田直親 漫画:田中 憲(現・田丸ようすけ)

第1回

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夏のある日、8人の乗客を乗せた一隻の小型船が、長崎港外に浮かぶかつての炭鉱島に向かっていた。

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石炭景気のころ、その島では強制労働や脱走者銃殺などの違法行為が日常的に行われ、渡ったら最後、2度と生きては出られないことから「かんごく島」と呼ばれ恐れられていた。

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その島も、石炭産業の斜陽化に伴い10年ほど前に閉山、今ではほとんど無人島と化している。住んでいるのは、島の管理人の赤七とその娘ヤスヨ、かつて島の巫女だった潮見のおばば、知的障害があると思われるあほうの松の4人である。

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一方、島に向かう小型船には、島を観光地(ホテル、ゴルフ場、賭博場など完備)に作り変えることを計画している島のオーナー・遠藤幸助(東京在住、遠藤産業社長)、その妻敏子、長男の和巳(本作の主人公)、長女のユミ(本作のヒロイン)、長崎在住の事業家で、かつて島の事業所長だった沢渡浩平、その妻スミエ、さらに、島の観光イメージ写真撮影のため、カメラマンの水野英太郎とモデルの滑川エリが乗っていた(船の操縦者は赤七)。

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二人の会話で、和巳とユミが実の兄と妹ではないこと(和巳は遠藤の、ユミは敏子の連れ子)、かつて、ユミは島にいたことがある、という事実がさらっと(でもないか)語られる。
上のページの和巳のセリフ「ユミのママとぼくのパパが結婚してくれたおかげで妹ができた…しかもとってもかわいこちゃんのね」を読むと、遠藤と敏子が結婚したのは割と最近のように感じられるが、実は再婚は10年前、ユミが5〜6歳のころである(第4話であきらかに。したがってユミは現在15〜16歳、和巳の年齢は不明だが、多分ユミの2〜3歳上、すなわち17〜18歳と推定)。

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船上では、退屈を紛らわすため、水野とエリがラジオの音楽に合わせて流行のダンスを楽しんでおり、ブルジョア的な匂いをまとう社長夫人・敏子はそれがお気に召さない様子。

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敏子が水を所望したところ、エリが水を汲んできたが、エリを快く思わない敏子は、これみよがしにその水を甲板に捨てる。と、その水をなめた敏子の猫が死ぬ。島に到着する前に、すでに「毒殺」が行われるという波乱の幕開け。

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そうこうしているうち、船は「かんごく島」に到着。これ以降、最終回まで、登場人物たちが島の外に出ることは一切なく、島の外の場面も当然なし(回想シーンはのぞく)。見事に「クローズド・サークル」ものです。

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石炭採掘を止めて久しい島はすっかり荒れ果てていた。一行は、近道だという坑道を抜けて、かつての事務所跡に向かう(ここが全員の宿舎となる)。その坑道のトンネル手前で、島在住の潮見のおばば、あほうの松、ヤスヨが一行を出迎え、島の不気味なムードを盛り上げる。

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坑道の中を進む一行。沢渡の妻スミエは坑道の中が寒いと言い、それを聞いた敏子は、自分の羽織をスミエに貸す。その直後、先導していた赤七のたいまつの火が消え、坑内は闇に包まれる。

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そんな暗黒の中を、突如、炭車(石炭の運搬に使うトロッコ)が疾走してきて、それに接触したスミエが死ぬ(第1の殺人)。

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敏子は、自分の羽織をスミエが着ていたことから、エリがスミエを敏子と思い込んで、走ってきた炭車に向かって突き飛ばしたのだと言い、それを否定するエリと取っ組み合いになる。

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その夜、遠藤は殺人が起きたことを長崎の警察に電話で連絡。沢渡は、
「この島ののろいだ! むかし何百人もの鉱夫をこきつかってころした、その鉱夫たちののろいが……」
とつぶやくが、遠藤は、
「やめろ、昔ここでやったことをしゃべるな」
と、沢渡を殴りつける。

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すると、沢渡は逆ギレして遠藤につかみかかり、首を絞めながら、
「このかんごく島はもうあんたのものじゃない! 二年前にわたしの名義にかきかえてうりとばした」
と、意外なことを口走る。

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一方、自分を殺そうとしたのはエリだと盲信する敏子は、赤七の元を訪れ、高級ウイスキー(多分)を報酬に、エリ暗殺を命じる。
「あっしはこの酒さえあればどんなことでもしますぜ」
と、簡単に応じる赤七(連載第1回目から、登場人物たちがかなりイッちゃってます)。

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「そしてつぎの日――、かんごく島の潮だまりに、ひとつの水死体が――」
という語りと、潮見のおばばの気色悪い唄「毒の花がわらってる 赤い血をすってわらっている……」で「つづく」(これ以降、毎回恒例となる登場人物紹介ですが、この回のみレイアウトが違っています)。

【ひとこと】連載開始の第一回はオールカラー40ページ。巻頭のフルカラーは本当に極彩色という感じで大変見ごたえがあるのですが、国会図書館でコピーする時、白黒で頼んでしまったため、原色の雰囲気をお伝えできず残念です。当時の私は「何か怖いなあ、でも目が離せない不思議なタッチの絵だなあ、ユミちゃんがキレイだなあ、おばばの顔は本気で気持ち悪いなあ」などと思いながら読んでいました。それにしても、主人公のはずの和巳とユミは、キャラの濃い人たちにかき消されて、この回の後半はあまり登場しませんね。なお、アオリのところに「真相をおって和巳のかつやくする次号をまとう!」とありますが、和巳は次回もほとんど活躍しません。

第2回

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潮だまりに浮かぶ水死体は沢渡だった。しかし、まだ息があることに気づいた和巳が水から引き上げ、沢渡は蘇生する。そこへ長崎県警察署長(どこの署だ?)の徳田兵太が単身、モーターボートで島に上陸。

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徳田はかつて遠藤の指示の元、島の鉱夫たちを強制労働させ、脱走者の銃殺を行ってきた「実行犯」の一人で、当時のことを警察の関係者に知られないよう、部下を連れずに来たという。

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徳田と遠藤が話している時、突然半裸のエリが助けを求めてくる。あほうの松に襲われたのだという。

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水野が松を止めようとするが、その怪力に逆に投げ飛ばされ、徳田や遠藤も伸びてしまう。「おもちろいおもちろい」と満足げな松。それを残念そうな表情で物影から見る赤七(前回、敏子から請け負ったエリ殺害の方法がこれだったとは…。トホホ)。

回復した沢渡は徳田に「海を見ていたらうしろからいきなり突き落とされた」と遠藤の方を見て話す。かんごく島の名義を書き換えて売り飛ばしたことを遠藤に話したため、それを恨んだ遠藤から逆襲されたと言わんばかりだ。しかし遠藤はそれを否認する。
そんな時、天井から血がしたたってくる。
「また人殺しか?」

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驚いた三人が急いで二階を見に行くと、蛇が眉間をナイフで刺されて殺されており、そのナイフに三人は見覚えがあった。

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「この島の炭鉱の現場主任で、敏子の夫だった森川伸介のナイフだ!」
「まさかこのへびを殺したのは森川だというんじゃないでしょうな」
「そんなばかなことがあるわけがない! 森川は十年前、われわれの手で第三坑道へとじこめた!」
(ここら辺からミステリー色が一気に加速してきます)

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遠藤、沢渡、徳田の三人は、10年前に森川を生き埋めにしたという第三坑道内の現場に足を向ける。と、その時、三人を待っていたかのように、土の中から白骨化した森川の死体が姿を現わす。

動揺した徳田は事務所に戻り、応援要請の電話をかけようとするが、電話線は何者かによって切断されていた。
「こうなったらわたしが長崎にもどって部下をつれてくる!」
と言い残しモーターボートに乗り込む徳田。

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しかしエンジンをかけた瞬間、ダイナマイトが爆発しモーターボートは炎上。徳田は即死、同時に、一行が乗ってきた小型船も吹っ飛んでしまう(第2の殺人)。

【ひとこと】第二回目でかなりショッキングな展開。森川伸介という男の存在がクローズアップされ、遠藤や沢渡がその男の殺人に関与していたことが明らかに(森川が敏子の前夫だったことも遠藤の口から語られる)。同時に、電話と船が使えなくなり、一行は外部と完全に遮断されてしまいます。しかしながら、森川の白骨死体が飛び出してくるシーンは、ホラーというよりはお化け屋敷みたいで、何度見ても笑ってしまうのですが…。それから、今回も後半はオヤジたち3人の会話劇中心で、和巳&ユミはほとんど出番がありませんでした(ユミの出番が少ないのは一応理由があるようにも思いますが…)。

第3回

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※この回と次の回は手持ちの『ぼくらマガジン』から直接スキャンした画像なので、少しおもむきが変わります

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徳田の死と船の爆発に激しく動揺する一同。岸壁で不安げに海を見下ろすユミに対し、和巳は、
「どんなことがあってもぼくはユミをまもってやる」
とようやく主人公らしいセリフを吐く。その二人の姿を物陰から見ているヤスヨ(彼女はどうやら和巳に一目ぼれしたようだが、前フリもないのでちょっとわかりづらい)。

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和巳は昔この島で何があったのか突き止めるために、潮見のおばばの元を訪ねる。おばばは、
「それを知ったとしてもむだなことよ。なぜなら、この島にいる人間にはみな死相が出ている」
と、いかにも巫女らしいことをつぶやきつつ、秘術を使って、和巳の脳裏に10年前のかんごく島の様子を再現して見せる。

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鉱夫たちを奴隷のようにこき使う現場監督と、それをとがめる主任の森川。

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森川は所長の沢渡に、劣悪な労働環境の改善や徳田による脱走者の銃殺取りやめなどを要求するが、それに対して沢渡は「特別賞与」で言いくるめようとする。森川はそれを拒絶し、沢渡を「人間のくず」と罵倒する。人道派の森川は、利潤追求第一主義の遠藤、沢渡、徳田らにとって目の上のたんこぶ的な存在であった。

意識を取り戻した和巳は宿舎にいた。坑道の入り口に倒れていたのを、ユミが連れて来たのだという。おばばが見せた光景が現実の出来事であったのか、まだ半信半疑の和巳。

一方の遠藤は、沢渡をともない、ふたたび森川を生き埋めにした第三坑道内に来ていた。遠藤は、あの白骨死体は沢渡の仕組んだものだと考えていたのだ。

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遠藤いわく、
「きみはわしをこわがらせて東京へかえそうとしている。わしがにげかえればこの島をうりとばしたきみはまるもうけだからな」
ということらしい(もっとも船はすでに二隻とも壊れているので、東京に帰りたくても帰れないのだが…)。
沢渡は油ですべって坑道内の窪みに落ちてしまう。しかし遠藤は「せいぜいそこで頭をひやしていろ」と言い捨てて坑道を出ていこうとする。その瞬間、火のついた木片のようなものが窪みに投げ入れられ、あわれ、沢渡は炎の地獄の中に…(第3の殺人)。

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【ひとこと】
3回目にして和巳がやっと主体的に動いた、と思いきや、潮見のおばばのところに行って、気を失って、ユミに介抱されただけでした。しかしながら、森川伸介がどういった人物だったのかが(読者に対して)明らかになったという意味で、和巳は役に立ったということにしておきましょう。それにしても、この書き起こし作業、思ったより時間がかかりますね。本当は4話ずつ全3回でまとめようと思っていたのですが、3話ずつ、全4回に変更します。まあ、ストーリーからいっても「4」=死で完結の方がしっくり来ますよね。というわけで今回はこの辺で。

「とりかぶとの花がゆれ、またひとり、沢渡がころされた! 殺人鬼は、いったいだれ? なぞをよぶ次号をまて!」(37号のアオリ)
posted by taku at 17:58| 漫画・アニメ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする