2016年09月04日

幻の「かんごく島」(2)

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※前回までのあらすじは省略しますので、なるべく(1)からお読み下さい。なお今回はネタバレがあります。

第4回

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殺された沢渡浩平、その妻スミエ、徳田の3人の墓が作られ、残された人々が手を合わせている。

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和巳は第三坑道に事件の謎を解く鍵があるのではと考え、森川主任と思われる白骨死体が現れた場所に赴く。そしてそこで出会った赤七から、10年前の事件について、かなり具体的な話を聞かされる(赤七、ちょっと口が軽すぎるだろう)。

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森川の当時の妻だった敏子にひとめぼれした遠藤が、森川を落盤事故に見せかけ坑道に閉じ込め、見殺しにしたのだ。

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森川と一緒にいたユミ(当時6歳)も当初は死んだと思われていた。

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遠藤の甘いささやきに思わずよろめく敏子。このあたりは、直接的な描写はないものの、大人の夜の駆け引きを感じさせ、少年誌とは思えない妖しいムード。しかし、いざこれからというその時――

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赤七が、ユミが生きて発見されたことを知らせに来たのである。それから間もなく、敏子はユミを連れ、遠藤の後妻に収まった。

この事実を知った和巳はかなり動揺した様子だが、10年前にユミが6歳だったとすると、ユミより年上の和巳は推定7〜8歳、確実に小学校には入学している。であるならば、自分の継母になった敏子の前夫(=森川)がどういう人物だったかくらいは、知っている方が自然な気がするのだが。周囲がかたくなに口を閉ざしていたのだろうか。それから、この再婚によって和巳とユミは出会い、恋人を思わせるような親密な義兄妹になるのだから、最初に敏子がユミを連れて遠藤家に入るあたりのエピソードは、是非回想シーンで見せて欲しかった。

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第三坑道からの帰り道、和巳は吊り橋を渡って坑道に向かう遠藤を見かける。と、橋の中ほどで踏み板が壊れ、遠藤は崖下に転落しそうになる。反射的に助けあげる和巳。その後で和巳は、
「なぜなんだ! 人ごろしの張本人のパパをぼくはたすけてしまった」
と自問自答する。このあたりの葛藤する和巳は、それなりに主人公っぽい。

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遠藤を抱えるようにして宿舎に戻った和巳。遠藤が橋から落ちそうになったことを聞かされ一同は動揺するが、その中にユミの姿がない。敏子によれば、少し前にヤスヨが誘いに来て、海に泳ぎに行ったという(連続殺人のさなか、海水浴ですか??)。ユミの洋服からヒラヒラと落ちる紙切れ、そこには、「ユミ! つぎはおまえのばんだ 命をもらう」と書かれていた。

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同時刻、海水浴を楽しむユミとヤスヨ(作品中初めてのリゾートっぽいシーン)。岩場に上がったヤスヨは泳いでいるユミを呼ぶと、いきなり自分の足に傷をつけて海に飛び込む。

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血の匂いでサメを呼び寄せ、そのサメにユミを襲わせようという企みであった。

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「わるくおもわないでね、ほほほ。これで和巳さんはわたしのものだわ」
そう、第3回の冒頭にあったように、ヤスヨは和巳に一目ぼれしていたのだ。さすが赤七の娘だけあって、かなり単純かつ成功率の低そうな計画である。しかしそこはマンガなので、1ページあとにはユミの真下に巨大なサメが現れる。

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サメが人間を襲うといえば、映画「ジョーズ」を反射的に思い出すが、このマンガの方が5年ほど早い。にしても、なかなかいいアングル。

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絶叫とともに海中に没していくユミ。第4の殺人…?

殺人鬼はヤスヨだったのか? 血にひきよせられた人くいざめがユミにせまる! 事件の真相をあばく次号をまて!(38号アオリ)

【ひとこと】10年前、森川が生き埋めにされた時、娘が一緒だったこと、その娘がユミであったことが明らかに。こうなると、ユミが一気に怪しく思えてくるのですが、そうした疑惑をそらす意味でしょうか、後半は無理やりヤスヨが犯人であるようなミスリードを行っています。しかし、こういうミステリーものの場合、物語の途中でにわかに「クロ」っぽい行動を取り始めた人物はたいてい「シロ」なわけで、当時小学1年だった私ですら、「あ、これは違うな」と直感しました。それと、これまで物語の中で死亡した人物は、ラストの紹介ページで黒縁に囲われるのがお約束なのですが、上の画像を見てもわかるとおり、ユミはそうなっていないんですよね。そこらあたりまで注意してみると、第4回にして、ほぼ真犯人確定という流れになってくるのですが…。
それから、この回で見逃せないのが、ユミの水着姿。普通のビキニとはずいぶん違う、斬新なデザインだと思いませんか?

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タートルネックっぽい襟元が何とも印象的で、こういう形のものが実際にあるのかいろいろ検索して、ついに、ほぼ同型のものを探し出しました。

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http://www.dena-ec.com/item/238741888?aff_id=kwm

ホルターネックでハイネックのタンクトップビキニというらしいです。1970年ごろも、こういう形のものがはやっていたのでしょうか? 

第5回

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殺人予告の手紙を見た一同が海に来てみると、ヤスヨが海から上がってきて、ユミはサメに襲われたと告げる。呆然となる一同。この局面で和巳のアップやセリフがないのは少々意外。主人公であるなら、海をながめながら、
「信じられない、ユミが死んでしまったなんて…。もしそれが事実なら、ぼくは犯人を絶対に許さない!」
なんて言う独白シーンがあってしかるべきだと思うのだが、それもなし。原作者はあまり和巳に思い入れがなかったのか??

和巳の代わり、というわけでもないだろうが、雨に打たれながらユミの死を悼む敏子の姿。このあたりはさすがに生みの母親である。敏子は、ユミを死に追いやったのは、以前自分を毒殺しようとしたエリと水野だと考え(かなり無理な発想だが)、再度エリたちの殺害を赤七に命じる。赤七は、島に自生する「とりかぶと」の毒を2人の水筒に混入させる方法を思いつき、それを実行に移す。

一方のエリは、水野を坑道付近のほら穴に呼び出していた。前回、赤七が和巳に過去のいきさつを語った時、エリはその話を立ち聞きしており、敏子が森川の前夫人であることを認識していた。そしてエリは、敏子こそ夫の復讐のために連続殺人を行っている真犯人であると思い込み、「殺られる前に殺る」ことを水野に提案する。いささかびびった水野は、水筒の水を飲もうとするが、そこに大きな蛇が現れ、驚いた2人は水筒を取り落とし、そのままそこを立ち去る。

道すがら、エリ・水野と敏子がすれ違う。敏子は2人の無事を見て、赤七の計画がまたも失敗したことを知る。
「むこうでもかんづきはじめたらしいわ。ぐずぐずはしていられない…」
とつぶやく敏子。その時草むらから、ある人物が敏子の方に歩み寄ってきた。

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それはまぎれもなく、ホルターネックでハイネックのタンクトップビキニを着たユミだった。

ここで来週に「つづく」かと思いきや、物語はそのままつづく。死んだと思われていたユミだが、小さな岩のわれめにもぐってサメから逃れたのだという。このあたりの状況を語るユミの表情はほとんど見えず、かなり不気味な雰囲気が漂う。

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「ママ、のどがかわいたでしょう」
どこかで見覚えのある水筒を敏子に差し出すユミ。しかし敏子は何の疑いもなく、
「おまえはほんとうにやさしいむすめだ」
と、嬉しそうに水筒の水を一気に喉に流し込む。

あとは、…禁断のグロ展開(部分着色でさらにグロくしてみました)。

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「ユミ!おまえはなにをいってるの、気でもちがった…ううっ」
「そう、いままでの殺人はみんなわたしがやったのよ。そしてこんどは、…わたしを生んでくれたママに死んでもらうのよ」
状況が理解できないまま絶命する敏子(第4の殺人)。

【ひとこと】衝撃回でした。全12回中5回で、早くも犯人が判明。こういうミステリーの場合、誰が真犯人かが最大の関心事なので、それが明かされるのは作品の最終局面であることが多いのですが(本家というべき「そして誰もいなくなった」の1945年映画版でも、真犯人がわかるのは97分中90分過ぎ)、このマンガでは、かなり早めに最大のネタばらしをしています。「刑事コロンボ」のように、最初から犯人を明白にしておくパターンとも違うし、こういう構成は今見てもかなり斬新なのではないかと思います。これまでは犯人探しでドラマが進んでいきましたが、この回以降は、ユミが次に誰を、いかなる理由で、どのような方法を使い殺害していくかが作品の「見せ場」になっていきます。それにしても、実の母親をここまで冷徹に殺害するヒロインていうのも、あまり例がないんじゃないでしょうか。しかし、それこそがこの作品のいわば「肝」で、薄幸そうな美少女にしか見えなかったユミが、殺人鬼の正体を現わすラストの数ページは、何度読み返してもゾクゾクしてきます。この「豹変」のインパクトゆえに、忘れがたいマンガとして40年以上も記憶に留まったのでしょう。なお今回、和巳の出番は序盤のみ、セリフもふたつだけの完全モブキャラ扱いでした。

第6回

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前回のエピソードから数十分〜数時間ののち(推定)。エリと水野は、草原を歩きながら、敏子殺害の相談をしていたが、そんな時、草むらの中で敏子の毒殺死体を発見する。
犯人だと思っていた敏子が殺されているのを見て混乱するエリ。水野は物影に潜む怪しい人影に気づき、追いかけて取り押さえる。

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それはユミだった。ここでもまだホルターネックでハイネックのタンクトップビキニを着ている(しつこい)。ユミは「真犯人に第三坑道に閉じ込められていた」と語り、その犯人が潜んでいるという場所に水野を案内する。

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そして竪穴の中にいきなり水野を突き落とす。ロープにぶら下がった石炭運搬器の中に落下する水野。
「ま、まさかいままでの殺人は…」
「ほほほ、そうよ、わたしがやったのよ」

そしてここから6ページに及ぶ、ユミの回想が始まる。

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遠藤の差し金で坑道に生き埋めにされた森川とユミがどんな「地獄」を味わったか――。落盤があって丸1日たったが、誰も助けに来ない。

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2人はしたたってくる水を飲み、坑内にいたネズミを食べて飢えをしのいだ。1週間後、壊した排水パイプから人の声が聞こえてきたが、それは計画成功にほくそ笑む、徳田と沢渡の笑い声だった。

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敏子も接触的に関与はしなかったものの、遠藤の後妻の座に収まることにまんざらでもなさそうだと聞き、森川は、遠藤、徳田、沢渡、敏子への復讐を決意する。森川はその一念だけで生き続け、ひたすらナイフや手で周囲の土を掘り崩した。

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食糧が足りず意識を失いかけたユミに、みずからのふくらはぎをそぎ落とし、それを焼いて食べさせることもあった。手も足も利かなくなった後は、頭と歯で土を掘り進めた。
「ユミ、わすれるな、おれたちをころそうとしたやつのことを! うらぎったかあさんのことを!」
という呪いの言葉を、6歳の娘に投げかけながら。

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そしてついに外の光が見えた時、森川は、
「さあ、いけユミ、いってたすけをよんでこい!」
と言い残し、そこで力尽きて絶命する。ユミは、森川が開けた小さな穴を這い出たところを、通りかかった赤七に発見されたのだった…。

ユミの回想が終わったあと、水野は、
「あんたのはなしはわかったよ、でもおれは無関係だ!」
と叫ぶ(まったくその通りです)。

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しかしユミは、自分の正体を知られた以上生かしてはおけないと、水野の乗った運搬器を、飢えたネズミたちが待ち受ける竪穴に落下させる(第5の殺人)。

【ひとこと】いやあ、回想シーンは文章に書き起こしていても何だか涙がにじんできますねえ。復讐というのは、ミステリーに限らず、古今東西、多くの小説、演劇、映画などの主要モチーフになっており、それだけ普遍的な人間の情動なのでしょうが、わずか6歳の子どもに、父親がこんな形で復讐を託するというのもかなり痛ましい話だと思います。ですが、ユミの一生を決定づけたともいえるこの重要な回想シーンのペンタッチが、どういうわけか全体に結構ユーモラスなんですよね(頭と歯で土を掘り進める森川の表情とか)。あまりリアルに書いてしまうと、陰惨になりすぎるという配慮だったのでしょうか。
ちなみに、岩下志麻主演で1982年に映画化された「この子の七つのお祝いに」は、岸田今日子扮する母親が、幼い娘(実は自分を捨てた愛人の子ども)に夜な夜な復讐心を植え付け、成長した後に連続殺人を実行させるという設定で、このマンガと共通するところがあります。
なお、今回は主人公の(はずの)和巳はまったく登場しません。でも、ユミの幼少期の回想と、白目剥き出しの殺人鬼モードの表情に衝撃を受けまくったため、当時はそんなことはまったく気づきませんでした。下画像でも明らかなように、ユミの表情、ヒロインモードと殺人鬼モードとでまったく違います(どちらも美しいのですが)。そのギャップにとにかくシビレますね!

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ついにあばかれた真相! 父の復讐のため、ユミがつぎにねらうのはだれ? 恐怖の来週号をまて!(40号のアオリ)
posted by taku at 18:50| 漫画・アニメ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする