2016年09月06日

幻の「かんごく島」(3)

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血もこおる恐怖の復讐物語「かんごく島」の魅力をあまさず伝えるレビュー第3弾!

第7回

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敏子の死に驚愕する遠藤と残された人たち。敏子と敵対していたエリに疑惑の目が向けられる。と、その時、無人のはずの炭鉱から炭車(第1話以来の登場)が走り出し、中から半分白骨化した水野の遺体が飛び出て木の上にぶらさがる(水野も死んだということを一同に認識させる目的なのだろうが、このあたりの描写は悪趣味すぎるので画像は貼りません。とばっちりで殺された水野があまりに不憫です)。

その日の夜、死神のような殺人鬼に追いかけられる悪夢を見る遠藤。
「夢か…」
と目を開けると、室内で誰かが包丁を研いでいる。

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しかしそれは殺人鬼ではなく赤七だった。赤七は、一連の殺人をエリの仕業と確信し、森の方に歩いていくエリの姿を確認したので、これから始末をつけに行くのだという。そのための獲物として、遠藤の部屋にあった包丁を持ち出そうとしていたのだ(この説明もかなり無理があるような。包丁があるとしたら遠藤の部屋ではなく厨房でしょう)。

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エリの姿を求め、森の中をさまよう赤七。足元にロープが張られてあり、それに足を取られ転倒、持ってきた包丁が胸に突き刺さる。

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そこに現れるユミ。前回までの、ホルターネックでハイネックのタンクトップビキニ姿ではさすがに涼しくなってきたか、今回は島に来る時に着ていたワンピース姿。

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「ばかな、ユミさんが生きているわけはない…ユミさんが…」
朦朧とした意識の中で、そう反芻しながら絶命する赤七(第6の殺人)。

ユミに言わせると、赤七こそ、第三坑道の落盤事故を起こした実行犯だという(これまでの話の流れでは、実行犯は沢渡と徳田という印象だったが、実際にダイナマイトを仕掛けるなどの作業は赤七に依頼したということだろうか)。

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「あのときパパをころしたやつらは、わたしの復讐をうけて死んでいくのよ!」
と、残り全員の殺害を(読者に)宣言するユミのアップで今回は終了。

【ひとこと】う〜ん。やっぱり真犯人とその背景が判明してしまうと、あとの展開がいささか苦しくなってくるなあ、と感じた回でした。犯人がわかったら、あとはミステリーの定石どおり、一気にラストになだれ込む方が話のバランスはいいのかも知れません。正直言って、「かんごく島」のピークは、前回紹介した第5、6話あたりであったように思います。
それから、ユミの連続殺人の動機が復讐であるなら、殺す相手は遠藤、沢渡、徳田、敏子の4人だけでいいはずですが、「そして誰もいなくなった」的な世界を再現するためには、それ以外の人間も何かしら理由をつけて殺していかなければならないわけで、この回以降、その理由づけにはかなり作者の苦労が感じられます。しかしどう考えても、和巳を殺す必要はないですよね。だから、ラストのコマで、涙を流しながら「和巳にいさんも!」と言い放すユミを見ても、正直「え、なんで」って感じでした。まあ、憎い遠藤の実の息子だから、という解釈は一応成り立つのですが。その和巳、今回も見事なまでにモブキャラで、セリフは「パパ! エリさんももうやめてよ!」と「水野さん!」の2つだけでした。物語も後半に入ったというのに、こんなんでいいんでしょうか。

第8回

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岬にひとり佇む和巳。
「この島にきてもう1週間…、食料も水ものこりすくなくなってきている。定期船の航路からもかんぜんにはずれているというこの孤島! このままではいつかぼくらはうえ死にしてしまう」
と、ひとり語りで現在の状況を説明(ちなみに連載では8週間が経過してます)。

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和巳は、カラスが群がっている茂みの中で、赤七の変わり果てた死体を発見する。そしてそこには血文字で「ユミ」と記されていた!

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宿舎の厨房では、ヤスヨが食料の残りがわずかであることを心配している(連載8回目にして、ついに孤島もののお約束というべき食料不足問題が露呈。まあ、もともと遠藤たち一行は1泊か2泊くらいのつもりで出かけてきたのだからそうなるのも当然だが、島の住民であったヤスヨや松は、これまでどうやって食料を調達していたのだろう? 潮見のおばばはヘビを生のままバリバリ食べている描写があり、自然児に見えるヤスヨも松も、島に自生する草や木の実、小動物などを食べて生きてきたように思えたので、こういう一般人目線の描写は少々意外であった)。

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そこへ和巳が戻り、ヤスヨや遠藤たちに赤七の死を伝える。それにしてもヤスヨ、ユミを殺してまで和巳を自分のものにしようと考えた割には、その後何もアプローチはしていなかったようだ。この辺は、妙に奥ゆかしいというか…。

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赤七の死を知って駆け出していくヤスヨ、動揺する遠藤。しかし、水野が死んでから酒びたりになっているエリは、驚かないどころかヘラヘラしている。それを見た遠藤は、
「犯人はエリでないことはたしかだ」
と、前話での自分の推測を改める。和巳は赤七のダイイングメッセージが気になり、ユミのスーツケースを開けてみると、ワンピースが消えていた。和巳は、
「もし、ユミが生きているとしたら…」
とつぶやくが、遠藤はかたくなに信じようとしない。

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そのころ、ユミはあほうの松を坑道に誘い出し、中にごちそうが隠してあるからと穴を深く掘らせていた。

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そしてその上から岩土をなだれ落とし、松を窒息死させてしまう(第7の殺人)。

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松の「罪」は、森川とユミが坑道に閉じ込められていた時、外部との唯一の連絡手段だった排水パイプを、「このパイプしゃべる! おばけだ」という理由で壊してしまったことだった(これは、閉じ込められて1週間後に、パイプを通して沢渡や徳田の声を聞いた後の出来事ということになるのだろうが、何となく後付けっぽい)。

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「もしユミが生きているとしても、あんなにむごい殺人をするなんてしんじられない」
山を見つめながら物思う和巳の姿を、木の陰からユミがそっとうかがっていた。

【ひとこと】ようやく、主人公だったことを思い出した様子の和巳が動き出します。冒頭で現在の島の状況を解説し、赤七の死体と血文字を発見、ユミの荷物を確認してその生存の可能性を示唆するなど、探偵的な役回りも。しかし、その一方、ユミの殺人はどんどん雑になっていきます。坑道内の穴に落とす、穴の中で生き埋めにするという方法は、第6話で水野に対して行ったのとあまり変わりませんし(しかも坑道への閉じ込めはこの後も出てきます)、もう少しバリエーションが欲しいようにも思いました。まあ、かつて自分が味わった方法なので、執着があるのかも知れませんが。あと、前回の【ひとこと】でも書きましたが、やっぱり殺人の動機が無理くりですよねえ。
それから、これはこの作品の成立そのものに関わってくる大問題なのですが、島に着いて1週間が経過したのに、依然、外部からの救援が来ない、というのはありえないでしょう。長崎からそれほど離れていない場所にあり、警察署長の徳田が単身モーターボートで乗り込んでから6日が過ぎているとしたら、絶対に誰か本土の人間が様子を見にくるはずです。これは見過ごすことのできないこの作品の「瑕疵」で、だから「そして誰もいなくなった」では金曜日に島に到着、土日は船便が休みで、月曜には船が来て物語終了、という、週末をはさんだのべ4日間の話にしていました。この「かんごく島」も、それくらいの時間設定にした方が無理がなかったかも知れません。もし、飢餓などの問題をクローズアップさせるため、1週間かそれ以上、完全な孤島であり続けるためには、連続する台風などの自然災害で、本土から船が出航できないといった物理的な制約が必要になってくるでしょう。

第9回

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浜辺に出て銛で魚を獲っているヤスヨ。しかし収穫はゼロ。生まれた時から島育ちのヤスヨなら、手づかみでも魚くらい捕まえられそうなものであるが。その様子を何者か(ユミです)が物影から見ている。

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一方、宿舎では遠藤、エリ、和巳の3人が食卓を囲んでいた(9回目にして初めての食事シーン)。

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遠藤は、
「もうがまんできん、毎日くさったいもばかりくわせおって!」
とブチ切れるが、到着当初の一行がどういうものを食べていたのかわからないので、この描写はいささか説得力に欠ける(到着日にそれなりに豪華な晩餐のシーンでもあればよかったのかも知れないが、到着後すぐに沢渡の妻スミエが殺されているし、そんなところにページを割けなかったのだろう)。とはいえ、このシーンの遠藤の言動は、彼のエゴイスティックなキャラクターがよく出ていて面白い。左下のコマの「くわぬとはいっとらんぞ、わしは!」なんて最高である。

和巳は、ユミが真犯人だという前提で推理を進める。

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「やめろ和巳! あのときユミはわずか五さいの子どもだったんだぞ! 事件のことをおぼえているわけがない!」
遠藤は和巳の言葉をさえぎる(第4回の赤七のセリフでは、あの時ユミは6歳だったはずだが。6歳だと明らかに記憶が残っているだろうという配慮で、1歳年齢を下げたのだろうか?)。
それに対し和巳は、
でも、ころされた父親のうらみが、ユミにのりうつっていたとしたら…
と、なおも事件の核心に迫る一言を発する。そう、一連の殺人事件の実行犯はユミだが、彼女を突き動かしているのは、10年前に死んだ森川伸介の怨念にほかならないのだ。

さらに和巳は、1年前の春、東京の自宅で、飼い犬のムサシが不審死した事件を回想する。

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島の中の場面ばかりだったので、都心での日常生活の場面が妙に新鮮。久々にヒロインモードのユミが見られる貴重な数ページである、のだが…

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「よわいものをおいつめてころそうなんてぜったいにゆるせない! よわいもの、力のないものも生きていくけんりがあるのよ!」

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体の大きいムサシが、小さな猫をいじめ殺したのを見たユミが、そのムサシに制裁を加えたのだろう、と和巳は推測する。

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「ユミはやさしい妹だった。でも、心のおくにはころされた父親のうらみがこびりついていたにちがいない…」

このエピソードは、弱者だったゆえに殺されかけたユミの被害者感情や、「やられたらやり返す」冷酷で周到な一面を効果的に伝えていると思う。実際に猟奇殺人を犯す人間が、動物の殺害から始めているというケースも少なからずあるというし、ユミも、この出来事で何かが「覚醒」したのかも知れない。

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そのころ浜辺では、姿を現したユミが、無言のままヤスヨの足を鎖で固定し、満潮とともに溺死させていた(第8の殺人)。

【ひとこと】第4回で行方不明となって以来、ユミと和巳は顔を合わせていないのですが、島に残る人の数が徐々に減っていくにつれ、いつ、どういった形で2人は再会を果たすのだろう、という関心が高まってきます。今回のストーリーは完全に和巳視点でしたが、ユミの内面がうかがえる東京でのエピソードなども挟まり、終盤に向けて物語が流れ始めた印象です。
今回殺害されたのはヤスヨでしたが、ユミの口からその理由は一切語られませんでした。それは、今さら語る必要もないからでしょうか。たしかに、第4回で、ヤスヨがユミを殺害しようとしたのは明白なので、その仕返しと考えれば納得はいくのですが、あれは、多分ユミとしても予想外の出来事だったはずで、もし、あの「サメ襲来事案」がなかったとすると、ユミはヤスヨを、どういう理由で葬るつもりだったのでしょうか。ここらへんはちょっともやもやしたものが残ります。もやもやといえば、第4回での殺人予告状も、誰が、何のために書いたのかよくわからないままですし、結果としては、ユミは殺されたと見なされたおかげで、そのあとの殺人を実行しやすくなったという利点もあったわけで、ユミとヤスヨの関係は、もう少しうまく料理できたような気もします(たとえば、あるところまでは2人は共犯だったとか)。
実は(1)では取り上げませんでしたが、第1回に、次のようなエピソードがあります。坑道のトンネル前で、島在住民のおばば、あほうの松、ヤスヨが一行を出迎えるシーンです。

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ヤスヨは挨拶もそこそこに駆け出して行き、それに対して赤七は、「ヤスヨはうまれてこのかたこの島をでたことがねえものですから」と詫びを入れ、敏子は、「ちょうどユミとおなじ年かっこうね」と心でつぶやきます。「同じ年かっこう」と、わざわざ説明を入れたというのは、当初、原作者の中でも、ヤスヨがユミに化ける、あるいはユミがヤスヨのふりをする、などの偽装トリックを使う計画があったからではないでしょうか。実際、この作品中の連続殺人はかなり手が込んでおり、どう考えてもユミの単独犯行としては無理があります。少なくとも第1の殺人(スミエ殺し)や森川の白骨出現などは、共犯者(協力者)の存在が不可欠で、とすれば、ヤスヨなどはその最適人者だったと思われるのですが…。

またひとり、満潮の海でヤスヨが死んだ! ユミの復讐は、いつまでつづくのか? のこされた四人の運命は?(43号のアオリ)


一応、次回でラストまで突っ走る予定です。一体どれくらいの人が、この記事を懐かしいと思いながら読んで下さっているのか、まったく未知数ですが…。しかし、1年前にこちらで取り上げた「谷ゆき子」も、関連書籍『超展開バレエマンガ 谷ゆき子の世界』が間もなく刊行されるようですし、完全に「埋もれていた」と思われるアイテムだって、何かのはずみで陽の目を見ることがあるのです。そう、かんごく島に「埋もれていた」森川の復讐心が、成長したユミの手で10年後に現実のものとなったように…。
posted by taku at 19:02| 漫画・アニメ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする