2016年09月15日

「かんごく島」の謎を解け

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しつこく「かんごく島」ネタである。正直、現在(9/15)までのところ、ほとんど反響はないのだが、前回のラストで《「かんごく島」には、まだまだ未解明な謎が多く残っているため、章をあらためてその追求をしていくことになるかも知れません》と書いてしまったので、責任を果たす意味でもう1回だけ取り上げてみたい。

(1)なぜ、一行が島に着いて1週間以上経過しても、本土から一切救援が来なかったのか?

言うまでもなく、これが「かんごく島」最大の謎だろう。外部との連絡が完全に絶たれたまま10日近くが過ぎ去ったために、ついに全員死亡という最上級のバッドエンドを迎えてしまったわけである。これに関しては(3)の第9回のところでも述べたように、連続する台風などの自然災害で、本土から船が出港できないといった物理的な制約があったと解釈するしかないだろう(そうでなければ話が成立しないので)。実際、今年(2016年)などは台風が次から次へと発生しているため、2週間近く物資が届いていない離島もあるようだ。残念ながら作品中で台風の連続発生を描いた場面はないが、第9回でエリが、「このごろ海があれているのよ。さかなは海のそこにかくれてるわ」と話すコマがあり、決して晴天に恵まれていたわけではないことがわかる。
というわけで、本土から救援が来なかった理由は、「荒天のため」で決着。

(2)なぜ遠藤幸助は、森川伸介生き埋め事件の一部始終を知っているユミを引き取って、10年も一緒に暮らしたのか?

これも、作品成立の根幹に関わる重要事案なのだが、(4)の第10回で述べたとおり、遠藤は潮見のおばばに命じて、ユミの記憶を一旦消させた、と私は解釈している。第9話で遠藤が、「(ユミが)事件のことをおぼえているわけがない!」と和巳に言うのは、それを踏まえてのことだろう。しかし、一旦は消されたユミの記憶だが、ムサシの子ネコ虐待事件がきっかけで、過去の出来事を思い出し…という流れもすでに述べたとおりである。
これは想像だが、遠藤は、記憶を失っていたユミに対しては、おそらくそれなりによき父親だったのではないか。それは第5回で、ユミへの殺害予告状を見た時の遠藤の言動によく現れている。「ユミがあぶない!」と叫ぶ和巳に続き、遠藤は「よし、みんなで海岸へいってみよう!」と、自分も殺されかけたばかりだというのに、現場に急行しているのである。そして岸壁では「ヤスヨがおよぎにくるのはいつもこのあたりなんですがねえ」という赤七に対し、「しかしどこにもおらんじゃないか」と激しく叱責している。
森川の娘であるという点さえ目をつぶれば、美しく成長したユミは、遠藤にとって和巳とならんで可愛い「わが子」であったに違いない。最終回のラスト前で、和巳とユミが仲よく乗馬を楽しんでいる回想シーンがあるが、これなども、遠藤が和巳とユミを分け隔てなく寵愛したあかしのように思われる。それだけに、ユミが第11回で「わたしはユミ! 森川ユミよ」と名乗り、復讐を宣言した時の遠藤の衝撃は大きかったに違いない。まさに「可愛さ余って憎さ百倍」で、その結果があの最終回の猟奇的殺人方法だったとすれば納得がいく。
というわけで、遠藤が、事件の一部始終を知っているユミを引き取り、10年も一緒に暮らした理由は、「ユミは一旦は事件の記憶を失っていたから」で決着。

(3)一連の連続殺人や不可解な現象は、本当にすべてユミの単独犯行なのか?

ついに来ました。これが最大の難関にして、大嶋(自称)探偵が一番知恵を絞ったところである。まあこの当時の連載漫画やドラマなどは、展開がかなり思いつきというか行き当たりばったりというか、伏線を張っておきながらきちんとそれを活かさなかったり、トリックや動機が解明されないまま話がどんどん先に進んだりするのは何ら珍しくないので、それをいちいち真面目に取り上げるのもナンセンスな話なのだが、私の「かんごく島」への思い入れは通常とはちょっとレベルが違うため、この機会に徹底検証を試みたい。

では「かんごく島」全12回を振り返り、殺人や殺人未遂、不可解な現象等をすべて抜き出してみよう。

<1>船上にて、コップの水を舐めた猫が変死、毒殺?(第1回)
<2>島到着後、坑道内にて炭車が暴走、沢渡の妻スミエ轢死(第1回)
<3>沢渡、死体のようになって潮だまりに浮かぶ(第2回)
<4>事務所2階にてヘビの死骸発見、頭部に森川のナイフ(第2回)
<5>第三坑道から謎のうめき声、続いて森川らしき白骨死体の出現(第2回)
<6>事務所の電話線が切断される(第2回)
<7>徳田のモーターボートと小型船が爆破、徳田焼死(第2回)
<8>沢渡、遠藤と第三坑道調査中に油まみれになり焼死(第3回)
<9>遠藤、つり橋の板を踏み抜き転落しそうになる(第4回)
<10>ユミ宛の殺害予告状が発見される(第4回)
<11>ユミ、ヤスヨの計略でサメに襲われ生死不明(第4回)
<12>ユミ、赤七の用意した毒入り水筒を転用して敏子を殺害(第5回)
<13>ユミ、水野を第三坑道の竪穴に突き落としネズミに喰わせて殺害(第6回)
<14>ユミ、草むらにロープを張って赤七を転倒させ殺害(第7回)
<15>ユミ、第三坑道であほうの松に穴を掘らせ上から土砂を落として殺害(第8回)
<16>ユミ、海岸でヤスヨの足を鎖で固定し満潮になる時刻に溺死させる(第9回)
<17>ユミ、潮見のおばばに岸壁から飛び降りるよう迫りおばば転落死(第10回)
<18>ユミ、遠藤とエリを第三坑道に生き埋め、遠藤は半発狂しエリを窒息死させる(第11回)
<19>遠藤、ユミ殺害をもくろむも和巳に阻止され事故死(最終回)
<20>和巳、ユミを助けた時に重傷を負い事故死(最終回)
<21>ユミ、自殺(最終回)

だいたいこんなところだろうか。犯人がユミであると明らかになった<12>以降は、すべて漫画の中で描かれていることなので、説明の必要はないだろう。問題は<1>から<11>までである。

<1>については一旦保留にして<2>から話を始めたい。<2>の炭車暴走、そして<5>の第三坑道からのうめき声&森川らしき白骨死体の出現、この2つに関しては、ユミが単独で行うのはどう考えても不可能である。<2>でのユミは、一行の中の1人として坑道を歩いていたので、炭車を操作する人間は別にいたはずだ。また、<5>の白骨死体などは作り物としても大変手が混んでおり、事前に入念な準備をしておく必要がある。しかし、作品を最後まで読んでも、ユミに共犯者がいた形跡はないし、かといって16歳のユミが家族に内緒で、事前にたった一人で島にわたってこつこつ準備をしていたとは到底考えられない。これには私も頭を抱えてしまったのだが、何度か作品を読み返すうちに、次第に真相がつかめてきた(おそらく原作者もそのつもりで書いたのだろう)。

結論から言うと、第3回での遠藤の推理が当たっている。あの白骨死体など一連の怪奇現象はすべて沢渡の仕組んだものである。遠藤いわく、
「きみはわしをこわがらせて東京へかえそうとしている。わしがにげかえればこの島をうりとばしたきみはまるもうけだからな」
これが動機のすべてである。

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第1回で明らかになっているように、沢渡は2年前、遠藤に無断で島の名義を書き換えて第三者に転売していた。おそらく、長崎で営む自分の事業が思わしくないため、その運転資金に充てたのだろう。なぜそんな詐欺まがいの行為が出来たかといえば、かんごく島が10年前に廃坑となって以降、東京在住の遠藤はその存在をなかば忘れており、島の権利証等(登記簿謄本のたぐい)も、沢渡に預けっぱなしにしていたからだろう。しかし、遠藤は何かのはずみに島の存在を思い出し、島全体をレジャーランド化する計画を構想する。

「東京での事業もうまくいっているし、廃坑の一つや二つほうっておいてもいいんだがね。まあこの遠藤幸助、どえらい道楽でもやってみようと思ってな!」
というのが本人の弁である。これに慌てたのが沢渡だ。すでに島を売却してしまっていることが発覚しては、文書偽造と詐欺の容疑で確実にお縄になってしまう。
そこで沢渡は、遠藤が自分から島の所有権を放棄したくなる状況を作ることを思いついた。島の中で怪奇現象が頻発すれば、遠藤が「こんな恐ろしい島はもういらん。沢渡、適当に処分してくれ」とでも言い残して東京に逃げ帰るだろうと計算したのである。たしかに、10年前の事件を知る者にとっては、森川の幽霊や死体が出たというのはかなりのダメージになるはずだ。
しかし、小心者の沢渡は、島に向かう船の中で、すでに馬脚を現し始めていた。遠藤のプランに対して、
「けっこうなアイデアで、社長!」
などと必死にご機嫌を取っているが、妻のスミエともども目が泳いでいる。

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また、島に着いてからも、沢渡の不審な挙動を遠藤がいぶかしがる描写がある。
「おかしいねえ、船にいたときからどうもへんだ! わしにかくしていることでもあるのかね?」
「め、めっそうな、社長にかくしごとなど!(汗)」
という二人のやりとりに着目すれば、沢渡が何もしていない方が不自然なくらいだ。

以上の前提から導き出された答え、すなわち、<2>から<6>までの怪奇現象は(スミエの殺人以外)すべて沢渡の主導によるものである。この一連の騒動により、「かんごく島には森川や大勢の鉱夫の亡霊がとりついている」という不吉なイメージを遠藤に植え付けようとしたのだ。

では、ひとつひとつについて具体的に検証していこう。まず<2>の炭車暴走に関しては、事前に沢渡から指示を受けた赤七が、娘のヤスヨとあほうの松を使って行わせたものであろう(一行が坑道に入る直前、ヤスヨとあほうの松が意味ありげにその場を去るのがポイント)。

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廃坑の管理人である赤七は、
「あの坑道をぬけるのが事務所への近道でさあ」
と、もっともらしく説明するのだが、船着き場から事務所に行く道はほかにもあるのに、東京から来た(それなりにいい靴を履いているであろう)一行を、わざわざ足場が悪くて暗い坑道に案内するのは不自然である。こうなってくると、これが炭車騒動に遭遇させるための誘導であり、赤七も共犯であったことは確実である。
坑道の中で、赤七の持つたいまつの火が突然消えたのも、赤七がわざと消したとすれば辻褄が合う。そしてそれを合図に、入り口附近で待機していたにいた松とヤスヨが、力まかせに炭車を軌道に押し出したのだ(炭車の走ってくる音は入り口の方から聞こえる、というセリフが作品中にある。すなわち、炭車を押し出した犯人は明らかに外にいたことになる)。

しかし、沢渡の目的は、あくまで遠藤に恐怖心を植え付けることであり、殺人などは思いもよらぬことであった。だが、復讐心に燃えるユミは、島に着いて以来、密かに殺人の機会を狙っていたのであり、坑道内でいきなりその絶好のチャンスに遭遇したわけだ。そこでまず敏子を、と狙いをつけ背中を押し、走ってくる炭車に接触させたのだが、それは、敏子の羽織を着ていた沢渡スミエであった。あの場で敏子は「スミエは人違いで殺された」可能性を示唆していたがその考えは正しい。こうして、ユミの殺人は錯誤からスタートしたのである。

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その晩、遠藤と沢渡は事務所で口論になり、いきなり殴られてブチ切れた沢渡は、「すでにかんごく島は第三者に転売した」と口走ってしまうのだが、いくら妻の死で動転していたとはいえ、これは明らかにミステイクであった。その場を立ち去った後で冷静になり、すぐ自分の失態に気づいた沢渡は、このままでは遠藤にどんな仕打ちをされるかわからないと考え、自分も「被害者」になることで遠藤の追及を交わそうと考えた。遠藤が本土と連絡を取り、翌日には徳田が島に着くこともわかっていたので、その到着時間より少し前に、自分から船着き場近くの潮だまりに入って、水死体を装っていたのである。徳田出迎えのため、誰かが船着き場に出た際、自分を発見してくれるだろうという周到な計画であった。実際、和巳が沢渡を発見して引き上げる場面の直後に、徳田のモーターボートが到着している。これが<3>の真相である。

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<4>の、事務所2階でヘビの死骸が発見され、その頭部に森川のナイフが刺さっていたのも、事前に森川の遺品(ナイフ)を入手できる立場にあった元所長の沢渡ならば、簡単に行えたはずである。
この場面は、最初のうちは遠藤と徳田の2人だけが話しており、沢渡は途中から「生きかえりましたよ」などと言いつつ事務所に入ってくる。2階でヘビの死骸をセッティングして(ヘビはおそらく赤七にでも用意させたのだろう)、それから部屋に入ったと考えれば納得がいく。

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次に、<5>の白骨死体出現について。まずこれが、実際の森川の白骨なのか、あるいは精巧に作った模型なのか、判断に苦しむところである。第6回で、ユミが白骨を見て、「パパ…」と意味ありげにつぶやく場面があるが、これだけではどちらとも言えない。とにかく、事前にああいう形状(うらめしや〜のポーズ)にしたものを土の中に埋めておいて、遠藤たちが現場に来たのを見計らって赤七が操作したものと思われる。土中から飛び出す仕掛けは、おそらくピアノ線か何かで引っ張ったのだろう(赤七は第4回において、第三坑道内で和巳と鉢合わせているが、これも、そのピアノ線などの細工を隠蔽するためだったと考えられる)。遠藤たちを坑道に誘い出した「うめき声」も、赤七が拡声器か何かを使って声を響かせたのだろう。

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なお赤七に関しては、遠藤や敏子の手先といった印象が強いが、彼は報酬さえ得られれば主人を選ばない、いわば仕事人タイプの悪党である。遠藤に内緒で沢渡の依頼を受けていたとしても何の不思議もない(実際、第3回の回想シーンでも、沢渡の命を受け猛犬を森川にけしかける場面がある)。

これに続く<6>、事務所の電話線切断も沢渡の仕業である。遠藤や徳田とともに事務所を出る時、素早くナイフか何かで切ったのだろう。そしてこれが「脅かし」のいわばフィナーレで、ここまでやれば遠藤は徳田とともに島を飛び出ると沢渡は計算していたのである(これらはすべて事前に予定していた行動なので、妻の死というアクシデントはあったものの、段取りの変更はしなかったと考えられる)。

しかし、沢渡の予想に反して遠藤は島に残り、徳田だけがモーターボートに乗った。もはや沢渡の手札は尽きたのである。ここからの彼は、ユミに殺されるのを待つだけの、あわれな標的でしかない。そしてここから、ユミが一気に動き出す。徳田が本土に戻って警察関係者を多数連れてきては、ユミの復讐殺人は不可能になる。そこでユミは思い切った行動に出た。それが<7>の、モーターボートと小型船の爆破(結果として徳田は焼死)である。16歳の少女の犯行として本当に可能なのか、いろいろ考えてみたが、ここで忘れてはならないのが、ユミが「炭鉱現場主任」森川の娘であるということだ。

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どうやら幼少期のユミは大変なパパっ子で、森川の仕事場にもひんぱんに出入りしていたようだ。それは落盤事故の時、ユミも一緒に生き埋めにされたことでも明らかだろう。であるならば、現場で岩盤を崩すための発破作業なども一度ならず見ていた可能性が高く、ダイナマイトの使い方もおおよそはわかっていたはずである。ただ、さすがに起爆装置は作れないだろうから、単純に、導火線に火をつけて船に投げ込んだと考えるのが自然だろう。では、そのダイナマイトはどこから調達したのか。ポイントは、かつての炭鉱事務所が現在のユミたちの宿舎であるという点だ。建物のどこかに、未使用の爆発物が残留していたとしても不思議ではない。おそらくユミは、到着した日の夜、みなが寝静まるのを待って、事務所の中を探索し、それを発見したのだろう。では、徳田のモーターボートだけではなく、自分が乗ってきた小型船まで爆破した理由は? それは、この島からの脱出を不可能にし、復讐殺人を確実に実行するためである。最終回のセリフ「全員に復讐をとげたとき、このとりかぶとの毒をのむつもりだった…」でもあきらかなように、ユミ自身、生きてこの島を出る気はなかったのだから、船の破壊には何のためらいもなかったのだろう。

また例によって長くなって来たのでやや駆け足で。<8>の沢渡が油まみれになって焼死したのも当然ユミの犯行である。ユミはその少し前、意識を失った和巳を第三坑道の入り口で発見して連れ帰ったと自ら語っている。

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しかし、そもそもなぜユミは第三坑道に行ったのか。そう、沢渡か遠藤のどちらかが足をすべらせ窪みに落ち込むよう、廃油を足元に撒きに行ったのである。そして改めて坑道に出向き、油まみれになっている沢渡に火を投げたというわけだ。

<9>の、遠藤がつり橋の板を踏み抜き転落しそうになるのも、ユミの仕業と考える以外ないのだが、つり橋というのは誰が渡るかわからないので、遠藤をピンポイントで狙ったとは考えにくい。もっとも、ユミの目的は、島にいる全員を殺すことなのだから、「こういう細工をしておけば、いつか誰かが落ちるはず」という、いわばトラップだったと考えるのが妥当だろう。ただ、こういう微妙な細工を果たしてシロウトができるのかという疑問は残る。細工をしている最中に自分が転落する危険もあり、まさに命がけである。もっとも、元から命を捨てるつもりだったユミには、すでに怖いものはなかったのかも知れない。

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<10>の、ユミ宛の殺害予告状、これは、これまでの殺人が予告なしで行われてきたことを考えると何とも唐突で嘘くさいのだが、ユミの洋服から落ちたことでも明らかなように、当然ユミの自作自演である。では、なぜそんなことをしたのか。これは次の、ヤスヨの計略とも関連してくるのだが、ユミは、第3回冒頭で和巳に抱きしめられた時、その様子をヤスヨが密かにのぞいていたことに気づいており、ヤスヨが和巳に好意を寄せていることを直感的に察知していた。

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とすれば、あの赤七の娘のことだ。自分の欲望のためなら、ためらいなく目の前の邪魔者を消そうとするに違いない。折りしも、10年前の事件が掘り起こされ、連続殺人の動機を持つ者として、ユミに疑いがかかるのも時間の問題となっていた。
「それなら、この機会にいっそのこと、自分は殺されたことにしよう。その方が好都合だ」
おそらくユミはそう考えたのだろう。ちなみに、本家というべき「そして誰もいなくなった」でも、真犯人はある方法を使い、途中で殺されたことになり、容疑者候補からはずれている。

であるから、<11>にあるように、ユミはヤスヨの計略によりサメに襲われ生死不明となるのだが、それもユミにはある程度、想定内の出来事であった。大して親しくもないヤスヨが、いきなり「いっしょに泳ぎましょう」と言って来た時から、多分海で何かを仕掛けてくると予想はしていただろう。しかし、まさかヤスヨが、みずからの血でサメをおびき寄せるという離れ業を使うとは考えていなかっただろうから、ある意味命がけの大芝居だったわけだ。このあと、ユミは再会した敏子に、
「ええ、ほんとにあのときはあぶなかったわ」
と語っている(第5回)が、これはユミの本音だろう。

<12>以降については、もはや説明の必要はないと先ほど書いたが、ひとことだけ。敏子と赤七の会話(エリの殺害計画)を盗み聞きしていたと思われるユミは、エリと水野の行動をマークし、2人が水筒を置いて立ち去ったあと、それを持ち去り、敏子殺害に用いた。これは周知のとおりなのだが、最終回でユミが自ら飲んだとりかぶとの毒は、もしかしたらこの時の水筒の水の残りかも知れない。もっとも、島にはとりかぶとが自生しているので、そこから毒を取ることはユミ本人にも可能だったのだろうが。

いずれにせよ、死んでいることになっている<12>以降のユミは、もはや鳥のように自由である。そして殺人方法はすべて、さして力の強くない少女でも充分可能な、ある種「他力本願」的なものになっている。実は、<13>で殺害した水野の遺体を載せた炭車が、坑道から猛スピードで飛び出してくるという難易度の高そうな描写が第7回の冒頭にあるのだが、坑道は斜面になっているため、一番高い場所から炭車を走らせればかなりの加速度がつくはずで、ユミにもあながち不可能な作業ではない。また、<16>でヤスヨの足を固定した鎖(足枷)は、かつて炭鉱で、坑夫の逃亡防止用に使われていたものの再利用であろう。
さらに補足するなら、<18>で遠藤とエリを生き埋めする際に使ったのは、徳田を殺した時に使ったのと同じダイナマイトで、おびき出しに使った肉については、ユミが洋服(ワンピース)を取りに宿舎に戻った時(この時はまだ食料のストックは充分にあった)、厨房から盗み出して保存しておいたものと思われる。

これで、ほぼすべての怪奇現象についての解明が終わった、と言いたいところだが、最後に、一旦保留にしておいた<1>について改めて考えてみたい。実はこの<1>こそが、最後の難問なのである。もしあの猫が本当に毒で死んだとして、そして犯人がユミだったとして、肝心の毒はどうやって手に入れたのか。とりかぶとの毒は、島に着いてからでないと調達できないはずである。

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となると、これは沢渡による遠藤への「脅かし」だろうか。島に着く前から、この島は不吉な場所ですよ、と印象づける狙いだったのだろうか。しかし、あの水はもともと敏子が飲むはずだったわけで(それを敏子が甲板にこぼしたため、たまたま猫が舐めて死んだ)、「脅かし」にしては悪質すぎる気がするのだが…。
あるいはエリが言うとおり、初めから水に毒などは入っておらず、猫は単に病気か、あるいは長旅の疲れで死んだのだろうか。すべての関係者が死に絶えた今、この猫の死だけが、永遠に解けない謎となってしまった。

というわけで、「一連の連続殺人や不可解な現象は、本当にすべてユミの単独犯行なのか?」の答えは、「これまでの殺人はみんなわたしがやったのよ」というセリフ(第5回)もあるように、殺しについては100%ユミの犯行。しかしそれ以外のほとんどは沢渡によるもの、という結果になった。

長い長い「かんごく島」ツアー、これにて完全終了です。ここまでお読み下さった方、本当にお疲れ様でした。
posted by taku at 19:59| 漫画・アニメ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする