2017年07月23日

イベントレポート完成!

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早いもので、『鎌倉アカデミア 青の時代』の東京公開から2ヵ月が過ぎ、大阪シネ・ヌーヴォ神戸アートビレッジセンターでの上映も無事終了しました。上映もひと段落といったところですが、また9月以降、名古屋シネマテーク横浜シネマ・ジャック&ベティなどで公開していきますのでどうぞお楽しみに。また、9/23には小田原映画祭でも上映が予定されています。

さて、大変大変遅くなってしまいましたが、新宿K's cinemaで公開中連日行ったイベントの模様をレポートにまとめましたので、徒然にお読みいただければ幸いです。劇場で回していたビデオを元にして書いていますが、逐語起こしではなく、適宜編集が加わっていることをご了解ください。また、臨場感を出す意味もあり、イベントが行われた日付でアップしてあります。

『鎌倉アカデミア 青の時代』イベントレポート(1)ゲスト:勝田久、加藤茂雄、岩内克己(5/20)
『鎌倉アカデミア 青の時代』イベントレポート(2)ゲスト:川久保潔、若林一郎(5/21)
『鎌倉アカデミア 青の時代』イベントレポート(3)ゲスト:高橋寛人(5/22)
『鎌倉アカデミア 青の時代』イベントレポート(4)ゲスト:山口正介(5/23)
『鎌倉アカデミア 青の時代』イベントレポート(5)ゲスト:澤田晴菜(5/24)
『鎌倉アカデミア 青の時代』イベントレポート(6)ゲスト:田中じゅうこう(5/25)
『鎌倉アカデミア 青の時代』イベントレポート(7)ゲスト:加藤茂雄、若林一郎(5/26)
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2017年07月18日

『現代コミクス版 ウルトラマン』刊行!(2)

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7/15、立派に完成した『現代コミクス版 ウルトラマン』が届いた。実に美しく仕上がっており、私の手元にあった原本の状態を考えると、よくここまで修復してくださったと感慨もひとしおである。

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落書きも最新技術によってきれいに修復

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巻末が欠落していた「バルタン星人」もきっちり最後まで

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そして奥付には、数々のレジェンドな方々の下に「資料協力」として名前が…

この記念すべき復刻版の刊行にあたり、私は上巻では9エピソードほぼすべて、下巻では7エピソード中2エピソード分の原本を提供したことになった。半世紀以上のキャリアを持つウルトラファンとしては少しばかり誇らしい気もするが、その反面、自宅の押入れで人知れず50年も眠っていた漫画本が、いきなりスポットライトを浴びせられたようで、いささかの戸惑いを覚えてもいる。ドドンゴとミイラ人間のエピソードではないが、「発掘なんかしないで、このまま一万年でも三万年でも眠らせてあげればよかったのに…」というフジ隊員の声が聞こえてくるようだ。ファンとかマニアの心理というのは、実に複雑で厄介なものである。

ではいよいよ、この井上英沖版ウルトラマンの「見どころ」を、テレビ版との対比を中心に紹介していこう。まだ刊行前なので、画像は原本のものを使い、あくまで参考程度に…(「ウルトラマン」各エピソードをひととおりご存知の方を対象に書いていますので細かいあらすじは省略しています。ご了承ください)。

まずはネロンガとバルタン星人。ウルトラマン誕生編となるベムラーではなく、この2体がコミカライズの最初になったのは、撮影の順番で台本や怪獣デザインなどの資料が回されてきたためだろう(ともに最初期の撮影で飯島敏宏監督作品)。

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ネロンガのストーリーはほぼテレビ版どおりだが、古井戸から続く洞窟の中で、フジ隊員とホシノ少年が、かつてネロンガを退治した村井強衛門の骸骨と書置きを発見したり(上画像参照)、その後二人がずぶ濡れで海から上がってきたり、といった具体的な場面があるため、テレビ版よりも状況がわかりやすい。

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また、第1話ということもあり、ウルトラマンがピンチになった時のナレーションがほぼフルバージョンで掲載されている(原本ではカラータイマーが「ガラータイマー」と誤記されているが、復刻版ではちゃんと訂正されていた)。

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バルタン星人の方はページ数の関係か、テレビ版をかなりコンパクトにした感じだが、随所に楳図かずお版(「少年マガジン」連載)の影響が見られる(水かきがついたバルタンの足の形状や、バルタンに憑依されるのがアラシではなくイデである点、など)。また、中盤では「二十億三千万人」とされていたバルタン星人の全人口が、終盤には「二十万人」と一気に減らされているのはご愛嬌か。

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ジラースは、テレビ版では戦闘シーンが変にコミカルで、ウルトラマンがジラースの襟巻きをもぎ取って、元のぬいぐるみがゴジラであることをわざわざばらすなど、本編の世界観に水を差すおふざけ演出が気になったが、井上版のコミックは全編シリアスムード。少年グラフの記者がライター型カメラで盗撮していたのを中村博士に気づかれてフィルムを抜かれるくだりも、テレビ版はロングショットのため何度見てもよくわからないが、この井上版ではばっちり理解できるし、後半、釣り人の撒いたカーバイト(毒)のためにジラースが正気を失い、主人であるはずの中村博士を殴打、そのために変装がはがれ二階堂教授の素顔が現れるという流れもテレビ版よりずっとスムーズだ。戦いの後の静謐なラストも哀れを誘う。

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藤尾毅のイラストも迫力満点!

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ギャンゴは、ほぼテレビ版と同じ流れだが、ギャンゴを操る男・鬼田が、テレビ版ではいかにも不審人物的だったのに対し(演じるは鎌倉アカデミア映画科出身の山本廉!)、このコミカライズではなかなかおしゃれな紳士になっているのが新鮮。ギャンゴが「ギャンゴ〜」と鳴くのもおかしい。

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また、ラストのシークエンスでハヤタのあとを追いかけるのは、テレビ版ではフジ隊員だが、こちらはホシノ少年になっている。この方が流れとしては自然だろう(最初の台本ではホシノ少年だったのが、俳優のスケジュールの都合でフジ隊員に変更になったらしい)。

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ドドンゴは、よみがえって暴れるミイラ人間の迫力ある描写に注目。テレビ版では怪奇性を重視した猿人系のビジュアルだったが、こちらはクラシカルな「ミイラ男」のいでたちで、怪力の巨人という位置づけ。こういうアレンジには作家の嗜好を感じて興味深い(一方、楳図かずお版ではテレビ版以上に怪奇性が強調されていた)。さらに、最初はミイラを生け捕りにすることを科特隊に要請していた岩本博士が、惨状を見兼ねて、最後にはみずからスパイダーショットでとどめを刺す描写も秀逸(テレビ版ではスパイダーを撃つのはアラシ)。撃ち殺した後の博士の悲痛な表情も印象に残る。

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ガボラは、暴風雨の中でその凶暴な姿を現わすシーンにはかなりのインパクトがあるものの、テレビと違い、最初から頭部のひれが開いているのが残念。閉じていたひれが開いて、まったく風貌が変わるというあの衝撃的な場面を漫画でも再現して欲しかった。

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ぺスターは、テレビ版ではムラマツのセリフに差し替えられオフになってしまった岩本博士の元セリフがきちんと書かれている点に注目。これがあった方が後のドラム缶投下の流れがしっくり来る。

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燃えさかる製油所の中でのペスターとウルトラマンとの激闘。ほぼ消火活動しかしなかったテレビのウルトラマンより、ずっと見ごたえのあるクライマックスとなっている。ラストのイデとキャップとのやりとりはほぼテレビと同じだが、井上版ではその後に、製油所の責任者から被害が少なかったという報告もなされ、読んでいるこちらもほっとする(テレビ版はどう見ても製油所全壊)。

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新バルタン星人については、以前に大変長い記事を書いたのでこちらを参照して欲しい。やはり井上版は、毛利博士がバルタンのために犠牲になったという事実をきちんと提示している点が高ポイント。重要なキャラを忘れたままで終わりのテレビ版はいささか消化不良な印象を受ける。

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ヒドラに関しても同様で、テレビ版では、ムトウアキラ少年を轢き逃げしたトラックの運転手がヒドラに襲われたり罰を受けたりする描写がなく(「自首して逮捕されましたよ」というハヤタのセリフがあるだけ)、また、楳図かずお版でもヒドラが襲うのは、ムトウ少年ではなく作品冒頭で和子という女の子を轢いたトラックの運転手で、ムトウ少年を死に追いやった直接の犯人をヒドラが襲って復讐を果たそうとする描写があるのは、この井上版だけである。そしてそのトラックを巡って、ヒドラと科特隊、さらにウルトラマンの繰り広げる追跡劇がドラマのクライマックスとなっている(これは一部、楳図版でも類似の描写があるが)。ウルトラマンはヒューマニストなので、相手が人殺しの運転手でも見殺しにはせず助けるのだが、そんなウルトラマンの足元に駆け寄ってくる運転手に対し、ウルトラマンは目を合わるのを拒むかのように、ヒドラの方に視線を移す。その悪人への厳しい態度が、幼少時の私などには大変印象的であった。そしてヒドラは、ウルトラマンの手にかかるまでもなく、ふたたび元の石像に戻っていく。ドラマとしての完成度は、テレビよりもこの井上版の方が高いように思われるのだが…。

テレビの「ウルトラマン」は、もろもろの特撮(飛行、爆破、戦闘など)に尺を使いすぎ、いささか収まりの悪い話が散見されるが、そういったドラマ的な「ほころび」を、この井上版コミカライズがうまく補っているケースが複数あることは注目に価するだろう。さらに言うなら、あまり再放送などなかったあの当時、子供たちはこの『現代コミクス』を再読三読していたので、井上版コミカライズこそが、ある時期までは、子供たちの脳内に刷り込まれた「ウルトラマンのオリジナルストーリー」そのものであった。かくいう私もそうであり、だから、ある程度大人になって再放送を見るようになった時、ペスターとウルトラマンの対決シーンがないことや、毛利博士が生死不明のまま忘れ去られていたこと、ムトウ少年の轢き逃げ犯が劇中でヒドラに襲われていないことなどに納得のいかないものを感じたのである。同様の印象を持たれた方は私以外にもきっといるはずで、井上版ウルトラマンのストーリーテリングの妙を、今回の復刻版で再確認していただければと思う。

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復刻版には収載されなかった「テレビウルトラマンニュース」(クリックで拡大)

※『現代コミクス版ウルトラマン』上巻は7月22日発売です!
posted by taku at 13:21| 特撮 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年07月17日

『現代コミクス版 ウルトラマン』刊行!(1)

今日は「ウルトラマン」放送開始51年。それにちなんで、久々のウルトラネタを。去年の50年の時には、いささか辛口の文章を書いてしまったので、今回はめでたい話題をご紹介したい。単行本化は不可能と思われていた『現代コミクス版 ウルトラマン』(漫画・井上英沖)の復刊ドットコムからの刊行である。

現代コミクス版 ウルトラマン 上 -
現代コミクス版 ウルトラマン 上

「ウルトラマン」放映の昭和41年から昭和42年当時、現代芸術社から子供向け月刊誌として刊行されていた雑誌『ウルトラマン』。毎号2本のコミカライズ作品を収録していたこの雑誌は、今では希少性も高く、マニア垂涎のシリーズとして知られています。今回は収録作のほとんどを手がける井上英沖による作品を上下2巻に分けて一気に収録!
上巻では、創刊号(昭和41年11月号)から昭和42年3月号までに掲載された「ネロンガ・バルタン星人・ジラース・ギャンゴ・ドドンゴ・ガボラ・ぺスター・新バルタン星人・ヒドラ」の回を収録。各号の巻頭作のカラー頁をかつての色調で再現し、当時の雰囲気を極力生かして再構成した復刻版です。

「ウルトラマン」放送当時のコミカライズといえば、『少年マガジン』(講談社)連載の楳図かずお版と『ぼくら』(同上)連載の一峰大二版、そして『現代コミクス』(現代芸術社)連載の井上英沖版の3つがあるが、最初の2つが何度も単行本化されているのに対し、この井上版は、出版社がつぶれて原稿は行方不明、おまけに掲載誌もあまり古本市場に出回らないという悪条件が重なり、これまでただの一度も単行本化されていない。それだけに、往年の特撮ファンにとって、かなり食指が動くアイテムであることは間違いないだろう。実はこの本の約3分の2は、私の持っていた『現代コミクス』が原本となっている。

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放送当時は、この『現代コミクス』を毎月購読している子供も相当数いたはずだが、その多くは成長過程で手離してしまったのだろう、50年が経った今では所有している人もほとんどなく、思った以上にレアな存在になっているようだ。しかし、断捨離などという今日的な行為とは無縁の私は、この『現代コミクス』を7冊ほど自宅の押入れに保管していたため、ちょっと自慢したい気持ちもあって、以前このブログで2回にわたって取り上げたのであった(こちらこちら)。

そうしたら昨年3月、突如としてこんなメッセージが送られてきた。

はじめまして。私は(株)復刊ドットコムの編集部に所属しております政田美加と申します。
(中略)弊社で、1966〜67年に「現代コミクス」や「TBSコミックス」で連載されていた井上英沖氏の『ウルトラマン』を単行本化できないかと、いま連載当時の雑誌を探しております。(中略)
大嶋様のブログで、いくつかお持ちであるとのことを発見し、何とか一時的に拝借できないかと連絡いたしました。ご興味いただけましたら、ぜひ、直接お目にかかって弊社についてのご説明などさせていただけたらと存じます。
何卒よろしくお願い申し上げます。

大伴昌司編の『怪獣ウルトラ図鑑』をはじめ、かなりマニアックな特撮系書籍を次々復刻している、あの復刊ドットコムさんから直々のご依頼である。かねてから、その業務内容や刊行物には並々ならぬ興味を抱いていたので、早速、担当の政田美加さんと連絡を取り、何冊かの『現代コミクス』を手に、大門にある会社をお訪ねした。

担当の政田さんは、もともとは某大手出版社の写真雑誌の編集部にいらした方で私とほぼ同世代。しばらく前に復刊ドットコムに移り、童話や少女マンガなどの復刻に携わったが、特撮関連の書籍は今回が初めてだという。
「ですから、いろいろ教えていただければと思いまして」
と丁重に頭を下げられ、こちらも思い切り恐縮してしまった。特撮ファンというのは、同性の前ではそれを吹聴することにさほど抵抗はないが、異性には、どこかでそれを隠しておきたいという心理が働くようで、だから、政田さんのような同年代の女性を前にして、ネロンガがどうだとかジラースがどうしたとか、あれこれ話すことに、最初のうちは気恥ずかしさを感じていたのだが、話を進めてみると、政田さん本人も女の子ながら「ウルトラマン」には本放送時にかなりハマっていたということで(特にジャミラの回は鮮烈に印象に残っているとのこと)、そうした気恥ずかしさもいつの間にか消え失せていた。

政田さんによれば、『現代コミクス』の復刊リクエストはそれなりの数寄せられているものの、原本は国会図書館にも収蔵されておらず、滅多に市場にも出ず、出たとしても相当の高額で、目下手をこまねいている状態なのだという。私は、まずは特撮マニアの一人として、今回の企画は興味津々であることを述べたが、同時に、コレクターとしては少なからず不安があることも正直に話した。というのは、私が所有している現代コミクスには、経年劣化がかなり進んでいるものもあり、ただでさえ傷みが激しいこの雑誌を、これ以上悲惨な状態にしたくなかったのである。

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「もしこれを原本として使うとしたら、スキャンするために一度バラバラにしなくちゃいけないんでしょ?」
最近目にすることの多い「自炊」と呼ばれる書籍解体作業のイメージを頭に浮かべながら、おそるおそる聞いてみた。すると政田さんいわく、
「いえ、大変貴重な御本なのは承知していますので、製本したままの状態で、できる限り開いてスキャンする形になります。それでもやはり、開き癖のようなものは残ってしまうと思うんですが、それをご了承いただけるようであれば…」
とのこと。バラさなくていいというのを聞いて少しほっとした。
「そうですか。でも、これは結構デリケートな問題ですので、返答には少しお時間をいただけるとありがたいです」
と、その話題は一旦棚上げにして、もうひとつの懸案事項に触れることにした。
「ブログではそれなりのコレクターのように書いてしまいましたが、実際、私は『現代コミクス』をすべて所有しているわけではありません。巻末が欠落しているものもありますし、だから仮に私が承諾したとしても、私の持っているものだけでは復刻は難しいと思います」
そう正直に現状を伝えたところ、
「もちろん、大嶋さんがお持ちでないものは、ほかのコレクターの方にも声をかけてみるつもりですし、ネットオークションや漫画図書館なども活用して、原本のコンプリートを目指すつもりです」
とのお答え。やはり餅は餅屋、これまでもさまざまな方法を駆使して原本を収集し、多くの復刻本を世に出してきたのだろう。

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「バルタン星人の巻」より。ウルトラマン登場以降のページが欠落している

しかし、まだもうひとつ、気がかりなことがあった。それは、マジックなどで思い切り落書きなどが書き込まれたページが少なからずあることで(当時3〜4歳の子供のやることだから仕方ない)、それがそのまま原本として使えるか、という心配だ。

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上下とも「ネロンガの巻」より。「ナゾーサマ」などと番組を超えた書き込みも…
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しかし、それに対しても政田さんは、
「最近はスキャンやレストア(修復)の技術が進んでいるので、相当コンディションの悪いものであっても、原本として使用することが可能なんです」
と、最近ご自身が担当された復刻書籍のページをめくりながら、丁寧に説明してくれた。それは大変きれいに印刷された少女マンガだったが、実際の原本(週刊誌)は紙が薄いため、裏写り(経年変化でインクが紙の裏側にまで染みてくること)がひどく、セリフなども読み取れない状態だったらしい。それを、専門スタッフが1コマ1コマ修復して、まるで生原稿から起こしたかのような鮮明な画像に仕上げたのだという。

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上は「ジラースの巻」、下は「ヒドラの巻」。下右ページのイラストは梶田達二
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政田さんは私が持参した『現代コミクス』を丁寧に見て、
「月刊誌ということもあって、通常の週刊誌なんかより厚めの紙を使っていますよね。そのおかげで裏写りもほとんどありませんし、これなら、それほど修復に手間をかけなくても、元の風合いを活かした、かなりいい感じの復刻本ができるのではないかと思います」
とおっしゃる。私も、50年も幻のままだったコミックの復刻本の出来上がりをイメージして、何だかわくわくしてきた。そしてそんな話を聞かせてくれる政田さんの声のなんと甘く心地よいことか。編集者が説明しているというより、物語の中の登場人物がセリフを喋っているようなのだ。そしてその甘い声にはどこかで聞き覚えがあるなあ、と思っていたら、なんとなんと、政田さんは、あの増山江威子さんのお嬢さんだったのである! 増山さんといえば、「ルパン三世」の峰不二子バカボンのママキューティーハニーか、とにかく小中学生時代のわれわれをこぞって胸キュン(死語)させたお色気ボイスの持ち主。政田さんの声は、その増山さんの声とウリ2つなのだ。何しろ、あの山田康雄氏が家に電話をかけてきて政田さんが出ると、疑いもなく増山さんだと思っていきなり用件を話し出す、などということが一度ならずあったほどだという。親子というのは顔だけではなく、声も似るものだというのを初めて知ったが、とにかく、そんな不二子ちゃんボイスの政田さんがこの復刻本の担当者ということもあって、私は数日におよぶ沈思黙考の末、手持ちの原本を、謹んで復刊ドットコムにお預けすることに決めた。「そうすれば出版完了までの間、折に触れて不二子ちゃんボイスの政田さんの声を聞くことができる」という下心があったことは否定できない。実際、それからは大した用事がなくても、
「その後、進捗状況はどうですか」
などと、月に一度くらいは編集部に電話を入れ、時にはバカボンのママを、時には如月ハニーをイメージしつつ、政田さんと話をするのが密かな楽しみになっていた(半分以上は冗談です、すみません)。

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『現代コミクス ウルトラマン』は全部で12冊刊行されているが、そのうち3冊は岸本修や加来あきらの筆になるもので、井上英沖は執筆していない。今回は井上英沖作品のみの復刻ということなので(個人的には現代コミクスすべてを復刻して欲しいという思いもあるが)、井上が執筆した9冊の「現代コミクス」を入手すればコンプリートとなる(上表の黄色のもの)。一方、私が持っている『現代コミクス ウルトラマン』は赤丸で示した7冊だが、そのうち井上執筆本は、1966年11、12月号、1967年2〜4月号の5冊だけで、あと4冊足りない(本当は1月号や5〜7月号も持っていたのだが、中学生くらいの時に処分してしまったのだ!残念!)。

その4冊を探すこと数ヵ月。やがて5月号は、私同様、ご自身のブログに現代コミクスの記事を書いていた「しら」さんからの借用が決まり、そして6、7月号の2冊は、まんだらけで販売されていたものを政田さんが見つけて購入したということだったが、最後の1冊、ドドンゴとガボラが登場する1月号が、どうしても見つからない。原本が9冊すべて揃わなければ、会社から正式なGOサインは出ないのだという(ドラゴンボール的な世界観ですな)。そんな時、たまたまその1月号がヤフオクに出品されていて今日の夜まで、という知らせが政田さんから入り、私も急遽入札に参加、それなりに激しい競り合いの末、想定額より安い金額でめでたくゲットすることができた(金額が低めだったのは巻末の数ページが欠落していたため)。数日後、無事に現物が届いた時には、ついに全冊が揃った充足感で、年甲斐もなく小躍りして喜んだものである。

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ついに手に入れた1月号。これも昔は持っていたもの。数十年ぶりの再会!

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めでたく9冊がコンプリート。1月号を復刊ドットコムに届けた際に撮影

以上が昨年9月のことであり、その後、政田さんは円谷プロや「ウルトラマン」各エピソードの脚本家の方、もしくはその著作権継承者に許諾を取る作業に取りかかる。だが、それが思いのほか難航したようで、ウルトラマン放送開始50年にあたる昨年中の刊行は間に合わなかったが、満51年を数えるこの7月に、めでたく日の目を見ることとなった。周年事業に1年程度の遅れはつきものである。私もこの間「鎌倉アカデミア創立70周年記念」と銘打った映画を公開したが、実は創立70年は去年のことであった。また、かの渡辺宙明先生の卆寿記念コンサートも年をまたいで行われたし、このくらいは許容範囲であろう。政田さん、長丁場本当にお疲れ様でした。

そしてついに一昨日(7/15)、完成した『現代コミクス版 ウルトラマン』が手元に届いたのだが、果たしてその出来栄えは…?

つづく

※『現代コミクス版 ウルトラマン』上巻は7月22日発売です!
posted by taku at 18:31| 特撮 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする