2021年03月30日

ルリ子をめぐる冒険(6)絵物語「緑はるかに」(中)

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前回までのあらすじ

片山ルリ子は、1年前から北海道に出張している父に会うため、父の会社の同僚・田沢とともに旅立つ。その途中、ルリ子は汽車の中で、チビ真という浮浪児と知り合いになる。北海道に着き、病気で衰弱した父と再会するルリ子。父は、「田沢は悪人で私の研究の秘密を盗もうとしている」とルリ子に告げ、秘密を隠した小箱をルリ子に託して息を引き取る。ルリ子は逃げ出す間もなく田沢に監禁され、連日、容赦ない責めを受けることに……

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ある朝、田沢はルリ子を連れて汽車で東京に向かう(「北海道にいるといろいろうるさいから」とのこと)。

一方、父の急逝を知った母は北海道に向かっていた(ルリ子が電報で知らせたらしいが、ずっと田沢に監視されていたのにどうやって電報を打てたのかは不明)。

ルリ子は駅弁の包み紙で鶴を折って窓から飛ばす。すると、それをたまたま駅の近くにいたチビ真が拾い上げ、汽車の中にいたルリ子に気づき、汽車に飛び乗り、「あ、いつかのお嬢さんだ!」と確認し、「一緒にいるのは悪い奴なんだな」と超速理解し、「火事だ!」と車内で叫び、その騒ぎに乗じてルリ子を連れ、走っている汽車から飛び降りる。こうしてルリ子は田沢の毒牙から逃れたのであった。

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すごい展開でしょ? これに比べると映画版なんて可愛いもんですよ。

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飛び降りたところは畑で、大した怪我もなかったが、ルリ子は足をくじいてしまう。また、飛び降りた拍子に落とした小箱のふたが開き「ブラームスの子守唄」が流れてきて、ルリ子は例の小箱がオルゴールであることを知る(ちなみにオルゴールの色は、映画では「緑はるかに」のタイトルにちなんで緑だが、原作では赤となっている)。

○ブラームスの子守唄(youtube)

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ちなみに、こちらが映画におけるルリ子とチビ真。

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一方、原作におけるルリ子とチビ真がこれ。

チビ真は、その名のとおり「チビ」という設定なのだが、中原淳一の描くチビ真はどうもそうは見えず(ルリ子とほぼ同身長)、しかもかなりの美少年。普通にお似合いの美男美女カップルに見える。このあたりの一連の挿絵を見ていると、もう、あとのガキ2人(チビとノッポ)はなしで、この美男美女の冒険物語にした方がいいんじゃないかという気がしてくる(残念ながら話はそれとは真逆な方向に進んでしまうのだが)。

その晩は「親切なお百姓さんの家」に泊めてもらい、2人はオルゴールをいろいろ調べるが何も発見できない。とにかく東京へ帰ろうと、ヒッチハイクで東京方面に向かうトラックに同乗。するとその中で、トラック助手が読んでいた新聞に「青函連絡線、機雷に触れて沈没!」の大見出し。死亡者欄にはルリ子の母の名前が……。

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まさに怒涛の展開。谷ゆき子の漫画みたいですが、この時代の少女小説って、こういう不幸のオンパレードが常套手段だったんでしょうね。

悲嘆に暮れるルリ子。チビ真はそんなルリ子を励まし、東京郊外の隠れ家(防空壕)に連れていく。待っていたのは仲間のデブとノッポだった。
彼らはすべて孤児だが、映画とは違い、孤児院から脱走したわけではなく、最初から自立生活を営んでいる様子(学校に行っているかどうかは不明)。

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こちらが映画のデブとノッポ。

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原作はこれ。
先ほどのチビ真もそうだったが、中原淳一の描くデブとノッポは、それほど「デブ」でも「ノッポ」でもなく、おまけにかなり整った顔立ちなので、3人ともほとんど見分けがつかない。

一方、田沢は東京のアジトで、2人の手下、「メッカチの大入道」と「松葉杖をついた、小人のように背の低い男=ビッコ」に、ルリ子奪還の指令を出していた。うーん。いろいろと時代を感じさせる表現ですな。

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映画の大入道とビッコはコミカルな風体だったが、

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中原淳一の描く2人の手下は、とにかく不気味で恐ろしい(石原豪人の絵に通じるものを感じる。美少女や美少年以外のキャラはこうなってしまのだろうか)。

大入道とビッコは、紙芝居屋に5万円の賞金をかけてルリ子を探させたり、ピエロの扮装をして町を探索したりする(このあたりの描写は映画にも取り入れられている)。

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ピエロの扮装をした大入道とビッコ。映画だとコミカルなのに、

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中原の描くこの2人は、夢に見そうな凄まじい形相である。

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この不気味な悪人コンビは、一度は三人組と一緒に縄跳びをしていたルリ子を発見するのだが、チビ真は「この子はルリ子じゃなくて『トン子』」だと言ってシラを切る(思いつきにしてもすごい名前)。大入道とビッコはルリ子の顔を正確に知らないため、その場は引き下がるが、チビ真は「もうここは危険だ」と、すぐに隠れ家を変えることを決める。原作のチビ真は大変なリーダーシップの持ち主。

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引越しの準備に取りかかる三人組。ルリ子は三人組の、「ボロは着てても心は錦」的な魂の美しさに感激し涙を流す。

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上は連載30回、5月17日の紙面だが、その翌々日の5月19日、物語のすぐ右横に、「緑はるかに」の映画化を報じる記事が。

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「緑はるかに」映画化
ターキーの初製作で
作者・北條氏も協力申出る


本紙に連載中の北條誠と中原淳一のコンビによる「緑はるかに」は、この種の絵物語として始めての純情ものとして好評を博しているが、近く日活で映画化と決定、プロデューサーに転向したターキー・水の江滝子のプロデュース第一回作品として製作されることになった。(中略)その素材をさがしていたターキーがこれこそ≠ニばかりとびついたのがこの「緑はるかに」だった。たまたま原作者北條氏はSSK時代からのターキー・ファンで、学生時代は容ぼうもそっくりというのでターキーばりのヘアー・スタイルをしたというほど…。それだけに、映画化に際しては脚色協力を申出てターキーを感激させている。


結局この北條のラブコールは実を結ばず、脚本は井上梅次監督が担当することになるのだが。それにしても連載開始わずか1ヶ月にして映画化決定とは、ずいぶん段取りがいいような…。この記事では、映画の素材を探していた水の江滝子がたまたまこの絵物語を見つけた、ということになっているが、もしかしたら初めから映画化ありきの、いわゆる「メディアミックス作品」として企画されたのではないだろうか(同年8月からはニッポン放送でラジオドラマも始まるし、いろいろと手回しがよすぎるのだ)。

彼らの新しい隠れ家は、隅田川にかかる新大橋沿いに並んだ倉庫の影にある、半分壊れた掘っ立て小屋だった。その屋根の修繕のため、小屋にある物を全部外に出していたところ、通りかかったくず屋のじいさんが、そこにあったオルゴールを見つけ、無断で持ち去ってしまう。帰宅したじいさんはそれを孫たちに見せるが、孫たちに「おまんじゅうの方がいい」と言われ、古道具屋に30円で売り払う。

くず屋のじいさんがオルゴールを持ち去ったことに気づいた三人組はじいさんを見つけて詰問、古道具屋に売ったことを聞き出しそこに向かうが、オルゴールは売れたあとだった。その話を立ち聞きしていた大入道がチビ真を拉致してアジトに監禁、田沢はルリ子の居場所を言わせようとリンチを加えるが、チビ真は口を割らない。デブとノッポはチビ真を奪還しようとするが逆に捕まってしまい、ついにルリ子のいる隠れ家まで案内させられることになる。

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大入道たちに引っ立てられた三人組はその途中でくず屋のじいさんと遭遇、事情を察したじいさんは「こないだの罪ほろぼし」にと、あわてて隠れ家にいるルリ子にそのことを知らせ、ルリ子を川岸に停まっている小型船に隠す。ところがその船は出航してしまい羽田に着く。ルリ子は船の船頭さんに事情を話し、その家に2週間ほど厄介になることに。

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ここからルリ子と三人組は完全に離ればなれになる。連載開始が1954年4月で、このあたりの展開は6月。ようやく再会するのは10月下旬。物語は12月に完結なので、原作でのルリ子と三人組は、全体の半分以上一緒に行動していないのだ!

さて、チビ真たち3人は田沢たちのもとから何とか脱出。やがて古道具屋の店先で例のオルゴールを発見する(前の古道具屋で買った人が転売したということか)。三人組は靴磨きをして代金の1500円を貯め、買い戻しに店に行くが、すでにオルゴールは売れてしまっていた。買ったのは「35、6歳の女性」だと言う(このあたりの展開は映画でも踏襲されているが、原作では、ルリ子は靴磨きに参加していない)。

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一方のルリ子は、世話になった船頭さんのお得意様(かなりの資産家)の奥様がルリ子を引き取りたい、と言い出したため、京都に行くことに(まさかの展開。養子縁組など、法的な手続きはどうしたのか)。

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舞台は一転し、京都での豪邸暮らしが始まる。

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おばさま(養母)はやさしい人で、おじさま(養父)は海外赴任中で長期不在。

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愛犬のシェパード「ジュピター」と散歩した帰り、みなし児のマミ子と出会う。ルリ子のたっての希望で、マミ子もおばさまの家で一緒に暮らすことになる(もう何が何だか…)。

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ちなみにこちらが映画のマミ子。くりくりっとした髪型など、かなり原作に忠実な姿。

急に「妹」ができたルリ子は「お姉さん」としてバタバタしながらも充実した日々。

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ある日ルリ子は、マミ子にせがまれ、弥栄会館で行われていた視聴者参加の公開番組「あなたの歌」(NHKの「のど自慢」が元ネタか)に飛び入りで出演。赤面しつつマミ子とともに「子鹿のバンビ」を歌い、見事合格して賞品をもらう。

ちなみに日本におけるテレビ放送はこの前年、1953年に始まったばかり。放送局はNHKと日本テレビの2局だけだった。力道山、木村政彦組対シャープ兄弟のプロレス中継が行われ、何万という観衆が街頭テレビに群がったのはこの年2月の出来事。まさにテレビの黎明期である。掲載紙である読売新聞は日本テレビの関係会社なので、テレビの宣伝普及のため、こういう場面を入れることを奨励したのかも知れない。

なお、この物語では、ルリ子とマミ子が歌う様子が全国に流れたようなことが書かれているが、この当時はまだNHKは東京、大阪、名古屋の3局しか開局していない。 仙台、広島、福岡などの局が放送を始めたのが1956年、全国ネットの放送体制が整うのはそれよりさらに4年ほど先のことである。

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賞品をもらってご満悦のマミ子。ところが東京の喫茶店では大入道が、また、街頭テレビでは三人組が「あなたの歌」を見ていたからさあ大変。ルリ子が京都にいるとわかり、大入道たちも三人組も京都に向かう。

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三人組には京都に行く旅費などは当然なかったが、飛行場で映画スターの「石狩浩一郎」と遭遇し、彼に頼み込んで飛行機に乗せてもらう。

この「石狩浩一郎」、何かしら物語の展開に絡みそうな雰囲気を漂わせていたが、実際はただの捨てキャラであった。ただ気になるのは、そのネーミングがどうしても「石原裕次郎」を彷彿させること(しかもこの「緑はるかに」は水の江滝子の第一回プロデュース作品)。しかし、1954年には、裕次郎どころか、兄の石原慎太郎も、まだ作家デビューしていないので、ただの偶然ということになってしまうのだが……。

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テレビの反響は凄まじく、ルリ子とマミ子に関する問い合わせが放送局に殺到。

きのうのテレビで、かわいらしい、ルリ子とマミちゃんのすがたを見て
「一つ、うちの会社の専属スターにしようじゃないか」
と思ったのでしょうか。けさは早くから、ひっきりなしに、各映画会社、レコード会社の人が、つぎからつぎへと、住所をたずねてくるのでした。


これは記念すべき連載第100回(1954年8月6日掲載)なのだが、そんな物語のすぐ下に、

「緑はるかに」のルリ子役≠一般募集

の記事が載っているのが実に興味深い。

「一般人のルリ子がテレビで注目を浴び、映画会社などから問い合わせ殺到」というエピソードとシンクロするかのような「映画のルリ子役募集」の記事。あまりに出来すぎたタイミングで、映画製作サイドから原作サイドへ、何らかの要望があったように感じられる。先ほどの記事にあったように、原作の北條誠は学生時代からのターキーファンとのことなので、プロデューサー・水の江滝子のリクエストに、ノリノリで応えた、といったところだろうか。それにしても、こうした一連の流れをすべて水の江が画策したのだとしたら、話題作りにたけた、実に有能なプロデューサーとしか言いようがない。原作→映画化決定→ヒロイン募集、というプロセスは、角川映画の「野性の証明」(1978年)を20年以上先取りしている。

このヒロイン募集の反応は大きく、2千数百人の応募があったという。審査は第4次まで行われ、最終オーディション(カメラテスト)には「原作者」北條誠と中原淳一も審査員として参加、中原の目にとまった浅井信子がルリ子役に選ばれ、中原はヒロインのヘアカットや衣裳考証など、映画にも深く関わることになるのだが、そのあたりのお話は次々回以降に。

さて、京都に着いた三人組は、ルリ子の住所を訊くために訪ねた放送局の事務所で、何とルリ子の母と出会う(死んだはずなのに生きていた??)。

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実はルリ子の母は、乗船直前に腹痛になり、事故を起こした青函連絡線には乗っていなかったのだ。しかしすでに切符を買っていたため船客名簿に名前が載っており、それで死亡者扱いにされてしまったという(どうでもいい話だが、挿絵における京都のおばさまとルリ子の母のビジュアルが、顔も髪型も服装もまったく同じため、いささか混乱してしまう。せめて片方は着物でなく洋服にしてくれるとありがたかったのだが……)。

母は東京に戻ってからずっとルリ子を探し続けていたが、テレビでその姿を見て、急ぎ京都に来たのであった。そしてまた、古道具屋からオルゴールを買ったのがルリ子の母だったことも判明する。ルリ子の母と三人組は京都に逗留し、手分けしてルリ子を探すが、その行方は杳として知れない。

一方、当のルリ子は、そんなことは露ほども知らず……

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「変な男(大入道とビッコ)がお宅の住所を聞きにきました」と放送局から電話を受けたおばさまは、難を逃れるため和歌山&九州への旅行を思い立ち、ルリ子とマミ子を連れて出かけたが、その途中で車窓から淡路島を見たルリ子が、
「行ってみたいわ、あの島に……」
とつぶやいたことで行き先を淡路島に変更、有名な鳴門の渦潮をのんきに見物しているのだった(このあたりの行き当たりばったり感がすごい!)。

それなりの日数が経ち、旅費もそろそろ心細くなったため、おばさまは単身、京都の豪邸に戻るが、張り込んでいた大入道たちによって、使用人もろとも監禁されてしまう。

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「やい、いわねえな。どうしても強情はるんなら、一ついたいめを見せてやろうか?」

ルリ子の居場所を言わせようと、和服のおばさまに鞭を振るう大入道。ああ、これぞ「伊藤晴雨の責め絵」的世界。映画におけるお母様の鞭打ちはここから発想されたのか…?

一方、淡路島の宿屋に居残ったルリ子とマミ子は、おばさまが一向に戻って来ないため宿代も払えず、その支払いのため宿屋のホールの演芸ショーに出て歌を歌う。

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恥ずかしがりのルリ子にはかなりの苦行だったが、目立つことの大好きなマミ子はノリノリ。

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そしてこれが評判を呼び「スミレ劇団」の上野という男にスカウトされる。

「宿代は肩代わりする、全国各地を回れる、学校にも通わせる、君たちはたちまちスターだ」
などの甘言に惑わされ、「スミレ劇団」入りを承知するルリ子とマミ子。だが「スミレ劇団」の実態は場末の旅回り一座で、上野はとんでもない悪党だった。

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哀れ、ルリ子とマミ子はいつ果てるともない流浪の日々を送ることに……。

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よろよろと立ち上がって、またばったり……
「ふん、大げさなやつだ。いくらそんなことして見せたって、だまされんぞ。さあ歩け、歩かなけりゃこれだぞ」
ビュンと、ムチをふって見せました。

あ〜、またしてもこの展開。どうでもいいけど、悪漢が女を鞭打つっていう描写が多すぎません? まさに無限地獄の如し。
哀れルリ子の運命やいかに??

つづく(次で完結の予定)
posted by taku at 11:53| レトロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月15日

ルリ子をめぐる冒険(5)絵物語「緑はるかに」(前)

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前回まで3回にわたり、映画「緑はるかに」の作品レビューをしてきたが、観る前の期待を大きく裏切る、まさに突っ込みどころ満載の作品で、正直、どう受け止めればいいのか困惑してしまった。ライナーノーツによると、井上梅次監督は当時公開されたばかりの「オズの魔法使」にインスパイヤされたらしい。たしかに、「オズの魔法使」も可憐な少女と3人の間抜けなお供が繰り広げる娯楽作品である。しかし、あちらがファンタスティックミュージカルとしての統一性を備えているのに対し、こちらは、冒頭とラストのみミュージカル風、話の序盤(ルリ子が逃げ出すまで)はミステリー風、そこから先は子供向けコメディ風という具合で、どうにも一貫性に乏しい。
「1955年当時の児童映画としては、これでOKだったのだろうか?」などと考えつつネット検索してみると、やはり、同じように感じた人が多かったようで、辛口のレビューが大半を占めている。

「死ぬほど期待してたのにあまりのつまらなさに泣きそうになる。お遊戯会レベル」
「完全にお子様ランチ。実験的カラーと浅丘ルリ子と言う逸材を使いながら、こんな内容かと思うと残念。物語の展開はご都合主義」

中には、
「原作は読売新聞に連載されたというから、脚本の責任が大きいのかもしれない。ストーリーは、リアリズムなどあまり気にしないつくりである…」
https://scienceportal.jst.go.jp/explore/review/20100811_01-2/

というものもあった。たしかに、
「原作は新聞の連載小説なのだから、こんなにハチャメチャなはずはない。すべては脚本の問題であろう」
と考えるのも無理はない。私も同意見である。

そこで、この映画のいくつかの問題点、すなわち、

1)川に落としたオルゴールが何故か古道具屋の店先に(あまりに唐突)
2)ルリ子の両親の生死(死んだはずなのに生きていたという理不尽)
3)オルゴールに研究の秘密を隠した方法(鏡の裏というのは安易すぎる)
4)研究の秘密とは何だったのか(最後まで明らかにされず書類が燃やされる)

以上4点と、それ以外にも、全体に場当たり的と思われるストーリー展開が、原作ではどのようになっているか、確かめてみようと考えた。

しかし、事は思ったほど簡単ではなかった。映画の「緑はるかに」は、DVDになっていたからすぐに手に入ったが、映画化と同じ1955年にポプラ社から刊行された単行本はとうの昔に絶版になっており、Amazon、日本の古本屋などのネットショップ、ヤフオク、公共図書館などで検索してもまったく見つからない。国会図書館での収蔵は確認できたが、これは最終手段である。

次に、新聞連載時のものを縮刷版で読むことを考えたが、なんと、読売新聞はまだこの時代には縮刷版を出していない。マイクロフィルムの状態で保存している図書館まで行って読むしか方法はなさそうだ(収蔵館はかなり限られている)。
しかし、どうにも原作の内容が気になって仕方がないので、緊急事態宣言のさなか、C県立中央図書館とF市総合市民図書館をハシゴして、マイクロフィルムを数回に分けて閲覧、そして最後に国会図書館で単行本を読み返してきた(単行本にはラストなど若干の加筆がある)。

おそらく、「緑はるかに」の映画と原作を対比した記事は他にないと思うので、お時間の許す範囲でお付き合いいただければと思う。

原作は読売新聞夕刊に「少年少女向け絵物語」として1954年4月12日から12月14日まで全210回にわたって連載。作は北條誠(北条誠とも表記)、絵は中原淳一。この2人は、中原が編集長を務めた『ひまわり』の連載小説などですでにコンビを組んでおり、その年代の読者にはおなじみの顔合わせであった。

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『ひまわり』1950年2月号

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長編少女小説「病める薔薇」より。「エス」の香りが漂ってきます。

少々前置きが長くなったが、ではいよいよ本題に。まずは連載開始前日(1955年4月11日)夕刊に載った告知文。

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ながらくご愛読していただいた「バシリカの宝刀」にかわって、明日から新しく、絵物語「緑はるかに」を連さいいたします。作者は、みなさんおなじみの北条誠先生。絵は、美しい少女をえがいて有名な中原淳一先生です。
物語の主人公は、ルリ子というやさしい心と、すがたのなかに、しっかりした性格をもっている少女です。ルリ子のお父さんは科学者でした。お父さんののこされたある鉱物のひみつをさぐろうと、悪者がルリ子を苦しめますが、ルリ子は、けなげにたたかい、こ児の少年真平君も、ルリ子を助けてくれます。そしてひみつは、あれやこれやと、深いなぞにつつまれて行く面白いお話です。題名の「緑はるかに」は、こうした美少女ルリ子の苦難のはてに、ひろびろとつづく希望と、いのりをこめたものです。ではみなさんも、ルリ子といっしょに「緑はるかに」をご期待ください。

わかったようなわからないような紹介文である。ルリ子は「やさしい心と、すがたのなかに、しっかりした性格をもっている少女」で、「ひみつは、あれやこれやと、深いなぞにつつまれて行く面白いお話」だそうだが、日本語としてだいぶ怪しいような…。本当にこれは当時の読売新聞の記者が書いたのだろうか?

まあ、連載が始まる前は細かいことは決まっていないだろうし仕方ないだろう、と思いつつ本文を読み進めてみたのだが、これがまた、映画とどっこいどっこい、いや、その斜め上を行くカオスな展開で、正直何度も腰を抜かしそうになった。
「新聞の連載小説なのだから、ハチャメチャなはずはない」という予想は完全に裏切られたのである。

百聞は一見にしかず。まずは最初の数回をご覧いただこう。絵物語というだけあって、毎回、中原淳一のイラストが3点も入るというゴージャスさ。話の内容はどうあれ、これはファンにはたまらなかっただろう。このころの中原は『それいゆ』『ジュニアそれいゆ』の編集長として多忙を極めていたはずだが、毎回きっちり3点、挿絵を執筆していたのだから恐れいる。ちなみに、単行本にはこの中原淳一のイラストは一切収載されていない。その後ほかの書籍に掲載されたという話も聞かないので、かなりレアなイラスト群だと思う。

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ルリ子の家に田沢が来て父のいる北海道に誘うところまではほぼ映画と同じなのだが、原作では田沢と出かけるのはルリ子だけで、しかも車で奥多摩、ではなく、ちゃんと汽車と青函連絡線を乗り継いで北海道まで行く。また、父と田沢は同じ会社の同僚という設定。なお、映画ではルリ子の苗字は「木村」だったが、原作では「片山」である。

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青森に向かう汽車の中で、田沢の持っていたリンゴを取ろうとして捕まりそうになった浮浪児(チビ真)をルリ子が助け、チビ真は「いつか、きっとお礼するよ」と言って姿を消す(東京の浮浪児であるチビ真がなぜ青森行きの汽車に乗っていたかは永遠の謎)。

映画の田沢は多少ユーモラスな面もあったが、中原の描く田沢はただただ恐ろしげ。不精ひげがまた怪しさを倍加させている。

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ルリ子は病院で衰弱した父と再会。父は「田沢は悪人で研究の秘密を盗もうとしている」とルリ子に告げる。

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父の病状は日を追うごとに悪化、父は田沢の目を盗んでルリ子に小箱(オルゴール)を渡し、「それを持って、にげておくれ」と言い残して息を引き取る(本当に死ぬ)。

しかし、ルリ子は映画のようにスピーディーに逃げ出すことができず、田沢とその一味に監禁され、朝から晩まで責め立てられるのであった。

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「かくさずいえ。いわなきゃ、こうしてやるぞ!」
と、きょうもまた、田沢の子分たちに、ひどいめにあわされて……ぐったり、床(とこ)の上にたおれて、とろとろまどろめば、その夢(ゆめ)の中に
「ルリ子、にげておくれ、早く!」
ああ、お父さまのお声。神さま! ルリ子は、格子(こうし)のはまった窓(まど)にすがって、ぽろっと、涙(なみだ)をこぼしました。

いやあ、映画ではお母様が鞭打たれていましたが、原作では、ルリ子本人が「ひどいめにあわされて……ぐったり」していたんですねえ。当時の新聞小説は思った以上にエグイ。これをこのまま映像化しなかったのは、井上監督の良心か、はたまた日活サイドの自主規制か…。さすがに、何も知らない14歳の新人女優にそんなシーンをあてがうことは憚られたということでしょう(どうせなら鞭打たれ悶絶するルリ子の姿も見てみたかったような気もしますが…)。してみると、原作の方が映画よりも容赦ないということになり、はてさて、これからのルリ子を待ち受ける過酷な運命は??

つづく
posted by taku at 21:34| レトロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月14日

ルリ子をめぐる冒険(4)映画「緑はるかに」(後)

前回までのあらすじ

小学6年生のルリ子は、北海道にいる科学者の父が病気になったと聞き、母とともに迎えの車に乗ったが、それは父の研究の秘密を盗もうとする某国スパイ一味の罠だった。両親とともに奥多摩にある研究所に捕らえられたルリ子は、発明の秘密を隠したオルゴールを瀕死の父から託され、どうにか脱出。孤児院から抜け出してきたという三人組と行動をともにすることになるが、スパイ一味に追われ、オルゴールを橋から川に落としてしまう。失われたオルゴールを求めて一行は東京に向かい、そして古道具屋の店先でそれを発見。靴磨きをして金を貯め、オルゴールを買い戻そうとするが…


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5日が経って無事に1500円が貯まり、5人はいさんで古道具屋に向かうが、ショーウィンドーにオルゴールの姿はなかった。店主に聞くと、今朝、「27、8歳くらいのキレイな奥さん」に売ったと言う(妙に具体的だ)。

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ルリ子たちが気を落として店を出た直後、大入道とビッコが店を訪れる。緑のオルゴールが店先に並んでいたことを聞きつけてやって来たのだ。それがすでに売れてしまったこと、そして、ルリ子たちも買いに来ていたことを店主から聞いた2人はすぐそれを田沢に報告。田沢は、
「いい手があるぞ。オルゴールかルリ子か、どっちかが引っかかる罠だ」
と2人に耳打ちする。

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田沢の命を受けた大入道とビッコがピエロの格好で、
「明日、サーカスに緑のオルゴールをご持参の方には、5万円を差し上げます」
と歌いながら町中を宣伝して回る(フランキーを出すならこのシーンでもよかったんじゃないかと思ったが、それだとフランキーも直接の共犯になるから無理だったのだろうか?)。それにしてもこの時代に5万円とは…。大変な太っ腹である。

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その話は5人の耳にも届いたが、チビ真は「あの広告を見てサーカスを調べに行ったら大入道がいた」と報告、ルリ子たちは、「ユニオンサーカス」が田沢一味の本拠地であることを知る。このままでは緑のオルゴールは田沢たちの手にわたってしまうかも知れない。しかし、顔を知られている自分たちがうっかり出て行けば捕まってしまう…。

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チビ真は、自分が以前いた孤児院「光の家」に行き(どう見ても絵です)、

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仲間たちに応援を要請(子供たちが浴衣姿で坊主刈りか坊ちゃん刈りなのが時代を感じさせる)。

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翌日、「ユニオンサーカス」の前には、オルゴールを持った子供たちの長蛇の列が。

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列には、面を被り顔を隠したルリ子、三人組とマミ子、そして「光の家」の孤児たちも混じっていた。

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そんな中、並んでいる子供の顔をうかがおうとする27、8歳くらいの婦人が…

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楽屋で田沢は、集まったオルゴールを調べていたが、どれもこれも偽物。

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だが、最後の最後に本物を発見する。
「これだ!」

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それを廊下で聞いていたチビ真たちは、楽屋に飛び込み、

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田沢の手からオルゴールを奪い取る。

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ルリ子と三人組、「光の家」孤児たちと田沢一味との、サーカス小屋での大乱闘。
ついにノッポからルリ子に、オルゴールが手渡された!

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そんな中、先ほどの婦人がマミ子を見つけ抱きしめる。彼女こそマミ子の母親だった。

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ドタバタの乱戦が続く中、警官隊がなだれ込んで来る。「光の家」から子供が集団脱走してサーカスに向かったとの通報を受け出動して来たのだ。

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警官隊の隊長は山田禅二(当時40歳)。「特別機動捜査隊」の田中係長など、叩き上げの刑事役がよく似合う俳優だが、こんなに昔から警官役だったのか、と思わず頬がゆるむ。

チビ真は隊長に、「こいつらは外国のスパイです」と告げるが、田沢は、「こいつらこそスリや不良です」とうそぶき、また、ルリ子の手にあるオルゴールは自分のものだから返させて欲しいと要請する。ルリ子は思わず激昂し、

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「いいえ! この中には大事な秘密が隠されています。ほんとにこいつらはスパイなんです!」
と、この作品で初めて、感情をあらわにした金切り声をあげるが、この声のトーンは、明らかに後年の浅丘ルリ子に通じるものがあった。

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そんなルリ子の熱弁も空しく、隊長は田沢に言われるまま、ルリ子のオルゴールに手をかけるが、

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その時「隊長、奥に木村博士が」という部下の声。

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そしてルリ子の父母、まさかの再登場。

え、え、え???

完全に、口(くち)ポカーン状態。あんたたち死んだはずでしょう? それなのに、ちゃんと立って歩いてますよ。

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「お父様、お母様!」
抱きつくルリ子。感激の再会、と言うのとは明らかに違う、強烈な違和感。

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木村博士ははっきりした口調で隊長に「この男たちを捕まえてくれ」と伝え、田沢らはあえなく逮捕される。

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「お父様も、お母様も、生きてらっしゃったのね」
「秘密を言えと毎日責められてね、今度こそダメかと思ったよ」
と言いつつ、あの時よりずいぶん元気そうな木村博士。奇跡の回復力。
三人組は自己紹介し、博士は、
「ルリ子が大変にお世話になったようだね」
と礼を言う(あんた、なんで知ってるの?)。

うーん。これはダメなんじゃないかなあ。子供向けだからいいの? こういうことをやるから「子供だまし」って言われるんじゃないの? いろいろと大変納得の行かないクライマックスである。

さらにここからも、いささか首を傾げる展開。

木村博士はチビ真から渡されたオルゴールの蓋を開けるが、流れてきたメロディが違う。ルリ子は「あ! これじゃない!」と顔色を変える。これだけ苦労してきたのに、偽物だったのか…と肩を落とす一同。

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その時、本物のオルゴールのメロディが聞こえて来る。

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曲の流れている園長室に向かったルリ子が見たのは、母親とともに緑のオルゴールに耳を傾けているマミ子の姿だった。

マミ子の母は、マミ子が一人で東京に向かったという手紙が届いたので、毎日、子供が集まりそうな所を探していたのだと言う。有島店主の言っていた、「27、8歳のきれいな奥さん」とはこの母親のことだったのだ。母親はオルゴール好きなマミ子のために、これを買い求めたというわけ。

これまでの事情を理解したマミ子は、そのオルゴールをすぐルリ子に渡す。そしてルリ子から博士の手に。

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博士はオルゴールの蓋の鏡をはずし、方程式らしきものが書かれた数枚のメモを取り出す。それにしても鏡の裏とはずいぶん単純な隠し方である。その程度の細工なら、以前、田沢たちがオルゴールを入念に調べた時に発見されそうなものだが…。ちなみに原作のオルゴールの秘密はこれよりずっと「高度」であるが、それについては後述する。

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木村博士は警官隊の隊長からライターを借りると、なんと、そのメモに火をつけて燃やしてしまう。どんな研究だったのかは、結局最後までわからずじまい。
「これは永久に悪い人たちに追われる秘密なんです。焼いた方がいいんですよ」
と博士。これにも口(くち)ポカーンである。
だったらどうしてそんなものをオルゴールに隠してルリ子に託したのか。

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ネットでこの作品の感想を検索していたら、以下のような文章があった。まったく同感である。

一番解せないのは、この世にない方が良いと判断した自らの研究を、わざわざオルゴールの中に入れ、娘に持って逃げさせると言う危険で愚かな行為をする木村博士。
それを必死に追い求めたルリ子ちゃんの目の前で、博士自ら書類を焼いてしまうと言う行為は、娘の気持ちを逆なでするだけだと思うのだが…
通常、この手の争奪戦で敵が破れ、秘密が守り抜かれた場合、ラストでその研究が実現し、みんなで「平和利用」などを誓って喜びあう…と言うのがパターンではないかと思うだけに、正に意表を突かれる展開と言うしかない。
http://www.ne.jp/asahi/gensou/kan/eigahyou69/midoriharukani.html

原作では、上の感想にあるように、作品の終盤で父の残した研究が実用化されることになり、ルリ子たちがそれを喜びあう描写もある(これについても後述する)。ただ「緑はるかに」の映画化は原作の連載と並行して進んでおり、映画の脚本が完成した時には原作はまだ完結しておらず、したがって原作のラストを映画のラストに反映することができなかったという事情もある。

以下は完全にエピローグ。

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プロローグでは、たった一人でベランダに佇んでいたルリ子だったが、今、ルリ子のそばには、三人組とマミ子の姿が。

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ルリ子の両親の計らいで、三人組はこの家から学校に通うことになり、母親と暮らし始めたマミ子も、今日は泊りがけで遊びに来たというわけ(ちなみに、自分の家にみなし児を引き取って一緒に暮らす、という設定は、「タイガーマスク」の若月ルリ子とまったく同じである。ルリ子が兄と運営する孤児院「ちびっこハウス」はもともとはルリ子の父母が私財を投じて始めたもので、ルリ子と兄はそこで孤児たちとともに育ったのだ)。

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ルリ子がオルゴールの蓋を開けると、例のメロディが流れてきて、またしてもストーリーと無関係な幻想の世界へと誘われる。しかも今度はルリ子単独ではなく、三人組、マミ子も一緒に…

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「5人の夢は大空へ飛びます」とナレーションは語るが、これは一体どう解釈したらいいのだろう。プロローグでは単なるルリ子の脳内妄想に思えたが、5人が共通の幻覚を見るということは、「星の世界」とやらはこの作品の中では実在するということなのか。

もしそうであるなら、岡田眞澄扮する月の王子様とやらが、人智を超えた力で、一度は死んだ父と母を生き返らせた、という展開にすればよかったのではないか。もともと現実離れしたストーリーだし、こういう異世界のセットまで組んだのだから、完全なファンタジー作品にした方が潔かったように思う。

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妙にガタイのいい人が踊っているなあ、と思っていたら、後の石原裕次郎夫人(北原三枝)であった。

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ルリ子を先頭に、以下、三人組とマミ子がカメラ目線で行進してくる。おそらくカーテンコール的な意味合いだろうが、映画でこういう趣向はいかがなものか。

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そんなこんなで、音楽だけが盛り上がる中、ヒロインみずからエンドマークを持って「おわり」。

レビューが思った以上に長くなってしまったので、映画と原作との違いなどについては次回に。

※動画の一部がYoutubeに上がっていたので、さりげなくリンクを張っておきます。

○プロローグ(星の世界)
○ダイジェスト&主題歌

※このページのキャプチャ画像は、日活株式会社が製作した映画「緑はるかに」(1955年)からの引用であり、すべての著作権は日活株式会社が保有しています。
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2021年03月12日

ルリ子をめぐる冒険(3)映画「緑はるかに」(中)

前回までのあらすじ

小学6年生のルリ子は、北海道にいる科学者の父が病気になったと聞き、母とともに迎えの車に乗ったが、それは父の研究の秘密を盗もうとする某国スパイ一味の罠だった。両親とともに奥多摩にある研究所に捕らえられたルリ子だが、研究の秘密を隠したオルゴールを瀕死の父から託され、どうにか脱出。孤児院から抜け出してきたという三人組と行動をともにすることに。


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翌朝、洞窟で目を覚ました4人は、近くの池まで行き顔を洗う。

「まあ、キレイなお水ね」
なんて言ってはいるものの、どこからどうみてもスタジオにあつらえた小さいプール。

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デブ(右端)がうがいをしているそのすぐ隣りでルリ子が同じ水で顔を洗っているのを見ると、何だか気の毒に思えてしまう。

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三人組は朝食の木の実や果物を探しに行き、ルリ子は池のほとりで野菊(食用?)を摘み始めるが、繁みに隠れていた田沢、大入道、ビッコのスパイトリオに拉致される。

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戻って来た三人組は、地面に落ちていた野菊からルリ子の拉致を悟り、彼女が故意に落として行ったと思われる野菊の後を追って吊り橋をわたり、エレベーターに乗って、研究所までたどり着く。

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前にも出てきた洞窟の断面(すごい特撮)。右に吊り橋の端が見える。

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研究所では、ルリ子が大入道に両腕を押さえられ、田沢がオルゴールを入念に調べているところだった。

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三人組は壁のスイッチを適当にいじくり、

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一部の機械をショートさせる。このあたりもコント風演出全開で、

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これにはルリ子も苦笑い、である(笑っているのがわかる)。

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途中でエレベーターを止められ、扉をこじ開け脱出したら、今度はそのエレベーターに押しつぶされそうになるなどの危険に遭うが、どうにか難を逃れる。

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なおも追ってくる田沢一味と、吊り橋の上でオルゴールの奪い合い。

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ここら辺は実際の橋ではなくオープンセットで撮られている感じ。

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ここでもルリちゃん笑ってるんだよね。案外楽しかったのか? あるいは照れ笑い?

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敵が手にしたオルゴールをチビ真が奪おうとしたその時、

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オルゴールは橋の下の川に真っ逆さま。一同呆然。

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と同時に、重量オーバーのためか吊り橋の綱が切れ、橋は真っ二つに(特撮班ご苦労様)。

絶対に死傷者が出るレベルの事故だが、子供向け映画なので敵味方とも全員無事。ルリ子&三人組と田沢一味が川の両岸に分かれてしまう。

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こんな時も笑っているルリちゃん。劇団出身の子役たちは必死で芝居をしているのに。でも、演技経験ゼロの素人がいきなりヒロインに抜擢されたのだから、随所に「素」が出てしまうのは仕方がない。むしろ、現在の「大女優・浅丘ルリ子」からは想像もできない初々しさが好印象。

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橋が分断されたおかげで、4人は田沢一味の追跡をひとまず逃れる。
「あの流れはどこまで行ってるのかしら」
「東京さ」

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落ちたオルゴールは、川を下って東京方面に流れていく。この辺の描写は、映画「緑の小筐」(1947年・大映・監督 島耕二)との類似を指摘する意見もある。

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ルリ子&三人組も、オルゴールを追いかけるように川に沿って東京へ向かう。

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旅を続ける4人のバックに主題歌(作詞・西條八十 作曲・米山正夫)がフルコーラスで流れる。

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緑はるかな 地平の彼方(あなた)
だれかよんでる まねいてる
汽車もいく 馬車もいく
思い思いの 夢のせて
ああ しあわせは どこにある

旅の小鳩の 翼が折れて
青いリボンに 雨がふる
父いずこ 母いずこ
歌え形見の オルゴール
ああ しあわせは どこにある

ビルの都(みやこ)は つめたいけれど
のぞくやさしい 青い空
泣かないで 行きましょう
今日も希望(のぞみ)の 花摘みに
ああ しあわせは どこにある

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その途中、4人はマミ子(渡辺典子)という家出少女と道連れになる。田舎で祖母と暮らしていたが、東京で歌を歌っている母親に会いたくなり、東京に行くところだと言う(父親はいない様子)。こうして一行は5人にふくれあがる。

※このマミ子は原作でも途中から登場するキャラなのだが、ルリ子の妹分的な存在として作者が思いつきで投入した感じで、大した活躍もしないまま、後半はほぼ忘れられて終わる。そんなわけで、映画でもあまり存在価値がない、と言いたいところだが、実は、伏線回収という点で、原作よりはきちんとした役割が与えられている。

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ところ変わってこちらは東京のある街。
空き地に小屋が建てられ「ユニオンサーカス」の公演が行われている。

フランキー堺(当時25歳)演じるピエロがいきなり登場し歌い踊る。呼び込みをしているという設定のようだが、同一画面に映っているのはエキストラばかり。他のキャストとまったく絡まない、フランキーの完全独演会である(しかもメイクが濃いので、言われないとフランキーなのか谷啓なのかよくわからない)。

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いささか不可解な出演形態だが、実は、この「緑はるかに」の公開5日前に封切りされた日活の「猿飛佐助」の主演がフランキー堺で、製作・水の江滝子、監督・井上梅次、スタッフも撮影・照明・録音が同じで、市川俊幸、内海突破、有島一郎など出演者もかなりダブっている(一部撮影期間が重なっていたのかも知れない)。そういうつながりでの「特別出演」のようだが、登場時間わずか1分40秒、カット数2カット。テストと本番で2時間もあれば撮影は終わったのではないか。

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どんな形であれ、当時売出し中のフランキー堺の名前を入れておけば、少なからず集客がアップするだろう、という製作側の思惑が透けてみえるようだが、せっかく出演するのであれば、単独ではなく、どんなに短くてもいいから浅丘ルリ子との掛け合いを見てみたかったと思う。

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さて、そのフランキーは出番の最後に「ユニオンサーカス」の園長室のドアを差し示すのだが、その中にいたのが何と田沢であった。世を忍ぶ仮の姿としてサーカス団を運営していた、ということなのだろうが、いささか唐突な話だ(フランキーの演じるピエロも田沢の手下だったことになる)。

田沢に、オルゴールもルリ子たちの行方も皆目わからないと報告している大入道とビッコ。
「この世の中から消えてなくなったわけではあるまいし。草の根を分けても探し出せ!」
と発破をかける田沢。

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一方、東京に着いたルリ子たちは、廃墟を隠れ家にして共同生活を始めていた。デブとノッポが靴磨きをして生計を立てているのだった。
全員分のおむすびを作っているルリ子。終戦からほぼ10年が過ぎているのだが、どうにも「戦後」を感じる光景である。

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ルリ子たちがオルゴールの話をしているのを聞いたマミ子は、オルゴールなら持っていると言いバスケットの中から取り出して見せるが、それは桃色と黄色の別物だった。
マミ子はオルゴールが大好きなので、去年、母親が買ってくれたのだと言う(これ伏線です)。

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マミ子のオルゴールの音色を聞くうちにルリ子は、幸せだったかつてのクリスマス(1年or2年前)を思い出し、
「あのころはよかったわ〜 父もいたいた母もいた〜」
と口パクで歌い出す(歌はやっぱり安田祥子)。

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絵に描いたような回想シーン。

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プレゼントをもらい満面の笑みのルリ子。

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父も母も元気そうだ。

それにしても庶民とはかけ離れた、なんともゴージャスな暮らしぶり。木村博士は何かの発明で巨大なパテント料でも手にしていたのだろうか。

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しょぼ〜んとしてルリ子の歌を聞く一同だったが(映画は開始からすでに1時間が過ぎてあと30分しかないため)、泣いてばかりいるわけにもいかず、ノッポ、デブ、マミ子は靴磨きに出かけ、ルリ子とチビ真はオルゴールを求め、当てもなく河口付近にたたずむ。

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そこでたまたま大入道&ビッコと遭遇(たまたまにも程がある)。

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またも追いかけっこが始まり、

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ルリ子とチビ真は古道具屋のタンスの中に身を隠す。

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大入道とビッコが去った後、2人は店主に謝って一度店を出るが、その店のショーウィンドーに、緑のオルゴールが飾られているのを発見する。
余談だが、チビ真のボロボロの服とルリ子のシミひとつない洋服との対比が笑える。ルリ子だって(推定)10日以上は着たきりすずめのはずなのに…。この辺はさすがのヒロイン待遇である。

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蓋を開けてメロディを聞くと、まぎれもなくルリ子が持っていた、あの緑のオルゴールだった(奥多摩で落としたオルゴールが巡り巡ってこの店にあったというのだが、もう少し経緯が語られないと話に説得力がないような…)。

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これはルリ子のオルゴールだから返して欲しい、と店主に頼むチビ真。しかし店主いわく、
「元は誰の物だろうと、金を払って仕入れてきたものだから。1500円なら売りましょう」
演じるは有島一郎。岡田眞澄とフランキー堺には裏切られたが、有島はきちんとルリ子と「共演」していた。この当時38歳とは思えぬ落ち着きで、もう芸風も完成されている。

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ルリ子とチビ真は隠れ家に戻り、あとの3人にことの次第を報告。デブは、
「靴磨きを5人でやったら、1日300円。5日間で1500円ぐらい貯まるさ」
と言い、5人は翌日から早速ガード下で靴磨きを始める(ガード下の靴磨きというのも時代を感じるが、この当時はまだ日常的な風景だったようだ)。

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可愛いルリ子にお客が殺到し、あとの4人はヒマを持て余す、などというシーンがあってもいいような気がしたが、それはなかった(この靴磨きのシーンもそうだが、どうも全体的にルリ子のアップが少ない。あまりアイドル的な売り方をすることは考えていなかったのだろうか)。

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1日の仕事が終わるごとに、ショーウィンドーのオルゴールを眺める5人。このあたりの展開はテンポもよく、明るい音楽と相まっていい感じ。

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雨の日には閑古鳥が鳴くが、翌日は靴が汚れているため繁盛するという流れも、さながら人生の縮図のようである。

さて、4人は無事にオルゴールを手に入れることができるだろうか? というところで次回につづく。

※このページのキャプチャ画像は、日活株式会社が製作した映画「緑はるかに」(1955年)からの引用であり、すべての著作権は日活株式会社が保有しています。
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2021年03月10日

ルリ子をめぐる冒険(2)映画「緑はるかに」(前)

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まずは浅丘ルリ子の映画デビュー作「緑はるかに」から紹介していこう。

正直に言うと、今回、浅丘ルリ子の経歴をネットで調べるまで、こういう作品があったことはまったく知らなかった。不勉強と言われても仕方ないが、概要を知るほどに食指が動く映画である。何より興味を引かれたのは、まったく演技経験のない普通の中学2年生が、一般公募で選ばれていきなり主演デビューを果たしたこと、そしてそれが「ザ・女優」のイメージが強い浅丘ルリ子だったという意外性である。しかも、ヘアカットと衣裳デザインは、美少女イラストで一世を風靡したあの中原淳一(これもかなり異色)。フランキー堺、有島一郎、岡田眞澄といった、個性派俳優陣との共演も興味をそそる。そしてメガホンを取るのは、「嵐を呼ぶ男」「鷲と鷹」から「江戸川乱歩の美女シリーズ」「スーパーガール」「ミラクルガール」まで、何でもござれの井上梅次監督。というわけで、かなりの期待を胸に早速DVDを注文し、視聴してみたのだが……。

以下、私的な感想も交えつつレビューをしていきたい。

全国の少年少女を湧かせた讀賣新聞連載絵物語の映画化。
全国2千人から選ばれた浅丘ルリ子主演、
日活初の豪華総天然色映画巨篇!

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製作/水の江滝子 原作/北條誠(讀賣新聞連載)
撮影/柿田勇 照明/岩木保夫 録音/橋本文雄
美術/木村威夫 衣裳考証/中原淳一 舞踊構成/飛鳥亮
編集/鈴木晄 助監督/井田探 色彩技術/小林行雄(日本色彩)
音楽/米山正夫
主題歌=コロムビアレコード
作詞・西條八十 作曲・米山正夫
「緑はるかに」河野ヨシユキ、安田祥子
「ルリ子の歌」安田祥子
コロムビア ひばり合唱団 
現像/日本色彩映画株式会社
脚本・監督/井上梅次
日活公式ページ

※このページのキャプチャ画像は、日活株式会社が製作した映画「緑はるかに」(1955年)からの引用であり、すべての著作権は日活株式会社が保有しています。

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牧歌的なメロディーの主題歌が流れ、ほのぼのした映画なのかなあ、と想像していると…

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自宅のベランダで、ひとり淋しげに空を見つめる主人公・ルリ子(生身の人間というよりお人形さん的な可愛らしさですな)。
科学者の父親が北海道へ行って1年も経つのに、便りがないのが心配なのだ。

実際の浅丘ルリ子は当時中学2年生(14歳)だが、物語の設定は小学6年生(12歳)なので、中原淳一はそのあたりを考慮してやや幼くみえる衣裳デザインにしたらしい。

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ルリ子は父からもらったオルゴールを開く。するとたちまち幻想の(星の)世界へ…

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学芸会的というか、なんとも児童劇的なセット。リアリズムの排除という点では、木村威夫らしいと言えないこともないが。

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ルリ子の右側にいる月の王子様が当時19歳の岡田眞澄(ただ立っているだけでひとことのセリフもなし。がっくり)。ちなみにこのシークエンスは物語とはまったく関係がない(なくても問題なし)。ただ単に「ミュージカル風の群舞シーン」を作品に入れたかっただけのように思える。

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ルリ子はここで「さみしいさみしいルリ子です〜」と自己紹介の歌を歌うが、残念ながら口パクで、実際に歌っているのは安田祥子。浅丘ルリ子本人が語るところでは、「美空ひばりに憧れて、歌手を目指していたが、小学校6年生の時、テイチクのオーディションに落選。そこで歌は諦めた」とのこと。あまり歌唱は得意ではなかったということか(それでも後年、そのテイチクから30枚以上のシングルを発表しているのだが)。

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無駄に長い幻想シーンが終わると、母が慌てた様子でルリ子を呼びにくる。

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「お父様がご病気なんですって。ひどくお悪いから、すぐ、私とルリ子に来るようにですって」
母親役は藤代鮎子。この人のプロフィールはよくわからないが、当時40歳ぐらいか。日本映画データベースによると、大映京都(1948〜1951)、松竹京都(1953〜1954)、日活(1955〜1957)と渡り歩いた脇役俳優のようだ。

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父の病気を知らせて来たのは北海道の研究所長を名乗る田沢という男。

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演じるは植村謙二郎。『ウルトラセブン』第9話「アンドロイド0指令」のおもちゃじいさんの若かりし日の姿である(といってもこの時すでに40歳)。一目見ただけで堅気でないと誰もが気づく、わかりやすいキャスティング。

ルリ子は母とともに、田沢の案内で父の元へ向かうことに。

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しかし田沢の部下が運転する車は、駅とは違う方向へ。いぶかしがるルリ子と母に、田沢は拳銃を突きつける。彼らは某国のスパイであった。

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田沢の部下・ビッコ(役名)と大入道(役名)。演じるは内海突破と市村俊幸。

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一行は奥多摩に作られた秘密の研究所へ(吊り橋とエレベーターを利用)。

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近未来的(?)なイメージの研究所セット。

田沢いわく、ルリ子の父・木村博士は「ここですげー研究を完成した」とのこと。
「宅がここに?」と母。自分の夫のことを「宅」と言うのが何ともレトロ(今はまず言わないだろう)。

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しかし完成したとたん、博士は書類を全部焼いてしまい、そして病気になってしまったという。
「お前たちが博士から研究の秘密を聞き出せ。そうすれば博士ともども東京へ返してやる」と田沢。

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木村博士と、ルリ子&母の涙の対面。
博士は病気でかなり弱っているようだったが、
「殺されても、お前たちを犠牲にしても、研究の秘密をあいつらに教えるわけにはいかん。善良な地球の人々のためにも」
と、悲壮な決意を語る(その研究は、平和利用すれば人類に幸福をもたらすが、悪用すれば災厄をもたらすものらしい。まあ定番の説明ですな)。

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木村博士を演じているのは往年の二枚目俳優・高田稔。私の世代では『ウルトラQ』の実質第1話「マンモスフラワー」の源田博士が思い出されるが、この時すでに55歳。14歳の娘の父親にしては少々年を取りすぎでは? もう少し若い俳優はいなかったのだろうか。まあ、年がいってる分、衰弱している感はよく出ていたが…。

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誰かの視線を感じてはっとするルリ子。

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壁に飾られた仮面越しに、田沢たちが様子をうかがっていたのだ。

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この演出はどこかで見覚えが…と思ったら、『江戸川乱歩の美女シリーズ』第2作「浴室の美女」(1978年)のワンシーンであった(こちらも井上梅次監督作品)。

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一夜明けて、ルリ子が目を覚ますと、母の姿がない。

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あわれ母は隣室で鞭打たれていた。鞭の音と悲鳴が響き渡る。思わず耳を塞ぐルリ子。

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木村博士に精神的な揺さぶりをかける田沢の卑劣な作戦なのだ。

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このあたりも『美女シリーズ』的で、とても子供向け映画とは思えない。ネットの感想で「和服の御婦人を縛り上げて、鞭打つなんて、伊藤晴雨の(責め絵の)よう」というのを見たが、まさにそんなノリである。これも監督の趣味だろうか。

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博士はルリ子に、「わしはもうダメだ。秘密を持って逃げてくれ…」と言い、それからは衰弱のため会話不能となり、筆談でやり取りするのだが、その間(2分ぐらい)ずっと母が鞭打たれる音と悲鳴が聞こえ続けている。なんともサディスティックな演出。

「オルゴール ハヤクニゲロ」とノートに記す博士。
博士は昨夜のうちに、ルリ子が持ってきていた緑のオルゴールに、研究の秘密を隠したらしい。

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ルリ子に後事を託した博士はついに力尽き、

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その20秒後に母もこときれる。子分のビッコが「親分、死んでますぜ」と言う(よく覚えておいてください)。

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「お父様…ルリ子は行きます。さようなら!」
ルリ子は父の亡骸に別れを告げ、オルゴールを持って決然脱出。

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木村博士の様子を見に行った大入道は「博士がくたばってますぜ!」と田沢に報告(これもよく覚えておいてください)。
田沢は博士の枕元にあるノートを見て、ルリ子がオルゴールを持って逃げたことを知り、大入道、ビッコに後を追わせる。

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ルリ子はエレベーターで外に出て、吊り橋をわたり、

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洞窟の中に逃げ込むが、

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突然現れた、赤、黄、青の鬼(の面)を見て気絶してしまう。

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追ってきた大入道とビッコも、鬼(の面)に驚いて逃げ出す。このあたりの演出は妙に喜劇的で、先ほどの「伊藤晴雨の責め絵的世界」とのギャップが激しい。

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気絶したルリ子を抱えて洞窟の奥に運ぶ3人の鬼たち。どさくさにまぎれて触りまくり。

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ルリ子が気づくと、被っていた面をはずして正体を見せる。

冒険を探して東京の孤児院「光の家」を飛び出してきたと言うチビ真(浅沼創一)、デブ(石井秀明)、ノッポ(永井文夫)の3人。さながら「ズッコケ三人組」(以下「三人組」と表記)。

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頼まれもしないのに下手クソな自己紹介の歌を歌い始める三人組。無理にミュージカル仕立てにしなくてもいいのに…。すでに作品が始まって30分、全体の3分の1を過ぎているというのに、一向に盛り上がっていかないのが残念。

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「あたしがヒロインなのに、どうしてアップも見せ場も少ないの」
と泣き出すルリ子(嘘です)。

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実際は、
「あたしもみなし児なの。お父様もお母様もスパイに殺されちゃったの」
と言って泣くのだが、父親が絶命したのはそばにいたからわかるとして、母親の死は認識していないはずなんだけどね。

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ルリ子の涙が呼び水になって、三人組も泣き出す。どうにも湿っぽくていただけない。

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今度はルリ子が三人組を慰めるという展開。4人は指切りで友情を誓う。

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おや、みなし児たちとともに夜空を見上げ明日の幸福を祈るその姿は…

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「タイガーマスク」のルリ子さんを彷彿させるものがあるじゃないですか! と勝手にわくわくしつつ、だいぶ長くなったので今回はこの辺で。
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2021年03月09日

ルリ子をめぐる冒険(1)プロローグ

今年(2021年)、漫画連載&アニメ放送終了から50年を迎える「タイガーマスク」(1968年連載開始、1969年放送開始)のヒロインの名前は若月ルリ子

wakatsukiruriko01.jpg 若月ルリ子(声:山口奈々/野村道子)

同じく今年、漫画連載&ドラマ放送開始から50年を迎える「仮面ライダー」(1971年)のヒロインが緑川ルリ子

midorikawaruriko01.jpg 緑川ルリ子(演:真樹千恵子)

また、少しさかのぼるが手塚治虫原作の「バンパイヤ」(1966年漫画連載開始、1968〜69年に水谷豊主演でドラマ化)のヒロインは岩根山ルリ子

iwaneyamaruriko01.jpg 岩根山ルリ子(演:嘉手納清美)

ドラマにおける立ち位置はそれぞれ違うものの、いずれも魅力的な女性たちである。

他にも「氷点」(三浦綾子の小説。1964年連載開始、1966年ドラマ化)の序盤で殺されてしまう医師の娘の名前も辻口ルリ子だったりして、私が幼少期のころの漫画やテレビは、まさに「ルリ子花盛り」という感じだった。

tsujiguchiruriko.jpg 辻口ルリ子(演:植田多華子)

1960〜70年代におけるこうした「ルリ子」現象はいかにして生じたのか。要するにその名前の由来だが、あのころ大変な人気女優であった浅丘ルリ子にあやかったものと考えるのが自然だろう。
その浅丘ルリ子(1940・昭和15年生まれ)は三十路を過ぎた1971年に、ひとつ年下の石坂浩二と結婚。これ以降、漫画やテレビなどでルリ子という名のヒロインはほとんど見られなくなる。やはり既婚者にヒロインのイメージを重ねるのは厳しいということなのだろうか。これも時代の流れ、で終わってしまうような話だが、ここでひとつの疑問が頭をよぎった。

「そもそも浅丘ルリ子の『ルリ子』は、本名なのか?」

いくら何でも、昭和15年生まれでカタカナ表記はないだろう、と思ってネットで調べてみたら、本名は「浅井信子」。どちらかといえば地味な名前である。それが14歳の時に、映画「緑はるかに」のヒロイン「ルリ子」役のオーディションに応募して2000人以上の中から選ばれ、役にちなんだ「浅丘ルリ子」の芸名でデビューすることになるのだ。そうした「歴史的事実」に触れるうち、私は図らずも「ルリ子をめぐる冒険」の渦の中に引き込まれていった。

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この記事では、浅丘ルリ子のデビュー作である「緑はるかに」の映画版(1955年5月公開)と原作(1954年4〜12月連載)におけるルリ子の活躍を振り返りつつ、同じ時期に連載が始まった、梶原一騎・原作、吉田竜夫・画による「少年プロレス王 鉄腕リキヤ」(『冒険王』1955年3月号〜1957年12月号)に登場するヒロイン・ルリ子との関連を探り、さらに同コンビによる漫画「チャンピオン太」(『週刊少年マガジン』1962年1号〜1963年52号)のヒロイン・るり子を経て、「タイガーマスク」のヒロイン・若月ルリ子が誕生するまでの流れを追っていきたいと思う。
posted by taku at 21:31| 漫画・アニメ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする