2021年05月31日

『バイクロッサー』の台本が…

先日、なぜか『兄弟拳バイクロッサー』のことを思い出し、ネット検索をしていたところ、大変にショッキングなものを発見。なんとヤフオクに、潮建磁(潮健児)の使用した『バイクロッサー』の台本が出品されていたのである。しかも、わずか1,500円という信じられない金額で、競り合うこともないままに落札されていたのだ。オークション開始は4月11日で終了は17日。つい先月のことではないか。気づかなかった自分が呪わしい。

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表紙の書き込みから、5月11日にクランクインで20日にアップ、25日にアフレコが行われたらしいこともわかる(もっともこれは決定稿が配布された時点での予定で、変更された可能性もあるが)。

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潮建磁みずからが描いたと思われる似顔絵も。

正直、これにはかなり凹んだ。この27話「善人になったドン」というのは、『バイクロッサー』全34話の中でも屈指の名作であり、そして唯一といっていい、潮建磁の完全主役回なのである。そんな貴重な回の台本が、こんな形で市場に出ていたとは……。

まずはこの「善人になったドン」を、簡単にご紹介していこう。

1985年7月11日放送。脚本:杉村のぼる 監督:奥中惇夫

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秘密結社デスターの首領(ドン)・ドクターQは、携帯縮小式のフライングマシンを発明し、みずからその試験飛行に出発。

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ここでタイトルコール。ドクターQを演じる潮建磁はこの時60歳だが、嬉々としてピアノ線につられている。

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シルクハットにタキシードといういでたちは、かつて『悪魔くん』で演じたメフィスト役へのオマージュか?

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大空の散歩を楽しむドクターQだったが、カラスに纏わりつかれ、バランスを失い、

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あえなく地面に落下。

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救急車で病院にかつぎ込まれるが、頭を打ったショックで記憶喪失になり、自分が誰なのか思い出せない。

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同じ病室には雪子という女の子が入院中。

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雪子は事故で足を痛め、今はもう完治しているのだが、恐怖心が先に立って歩くことができない。

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ドクターQは、タキシードの内ポケットに入っていたフライングマシンを見つけ、雪子に着用を促す。「歩けなくても、これで空を飛べば、行きたいところへ行ける」と(記憶喪失のはずのドクターQが、どうしてフライングマシンの操作を覚えていたかという野暮な突っ込みはなしで)。

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本来、ドクターQは子どもが大嫌いなひねくれた性格なのだが、雪子の境遇が自分の今の境遇と重なったからか、あるいは頭を打ったショックからか、素直に雪子と心を通わせていく。父親がいない雪子も、ドクターQを「おじいちゃん」と呼んでなつく。

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しかし、ドクターQを本部に連れ戻そうとするデスターの面々が襲ってきて、それをバイクロッサーが撃退するなどの騒ぎがあり……(ドクターQの深層意識に、これまでさんざんバイクロッサーにやられてきたという記憶が残っていたようで、バイクロッサーには激しい嫌悪感を示す)

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これ以上雪子を危険な目に遭わせるわけには行かないと、そっと病院から去ろうとするドクターQだったが、雪子も、「おじいちゃんと一緒に行く」と聞かない。

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ドクターQは雪子の母親に、「雪ちゃんは必ずお返しします」という置手紙を残して(悪の首領とは思えぬ紳士的な行為)、ひととき、雪子との道行きを楽しむが……

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またも、ドクターQとフライングマシンの奪還をもくろむデスター一味。今度は、デスターロボがドクターQそっくりに化けて雪子に近づく。

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これがデスターロボが化けたドクターQ。潮建磁の演じ分けに注目。

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この時は本物のドクターQが雪子にそれを知らせ、雪子は駆けつけたバイクロッサーの助けもあって難を逃れる。そして雪子は、乱闘に巻き込まれて倒れているドクターQの身を案じ、ついに自分の足で立って歩く。

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それを見つめるドクターQ。まあ、この辺は「クララが立った」的な王道展開なのだが、潮建磁の演技に思わず見入ってしまう。

雪子が歩けるようになったのを見届けたドクターQはその場に倒れ、その時に頭を打ったショックで、元のドクターQに戻る(ほぼ同時に雪子もつまずいて倒れ意識を失っており、ドクターQの変貌は見ていない)。

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記憶を取り戻したと同時に、雪子と過ごした日々のことをすべて忘れてしまったドクターQ。デスターの首領として戦線に復帰し、バイクロッサーとの戦いが始まる。この後はルーティンワークなので省略するが、ラストは、無事退院することになったユキ子が、病棟の方を振り返り、優しかったおじいちゃん(ドクターQ)はどこに行ってしまったのかしら、と思いを馳せる場面で終わる。

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いかがだったろうか。
60〜80年代のテレビ特撮作品を思い返しても、悪の組織の首領が、一時的とはいえ、完全に善人キャラに変貌するというエピソードは他に思い当たらない。そういう意味では、大変な異色作といえるだろう。
「どんなエゴイスティックな人間でも、その根底には善の心がある」というテーマは、ディケンズの「クリスマス・キャロル」にも通じるものがあり、放送当時に視聴した時にも大いに感心したものである。脚本の杉村のぼるは同時期に『スケバン刑事』のメインライターも務めていたのだが、あちらではかなり陰惨なエピソードを連発していたのに対し、こちらはどこまでもハートウォーミングな作劇で、その書き分けの妙にも舌を巻いたものだ。そしてまた、悪の首領と人のよい初老の男を見事に演じ分けた潮建磁の名演も忘れがたい(彼自身も大層気合いを入れて撮影に臨んだように思われる)。以上の2つの理由により、今でも深く記憶に焼きついている一作なのである。

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そんな名作の台本が、しかも、実質的な主役である潮建磁が使用した世界でたった1冊の台本が、ネットオークションで売買の対象となり、わずかな金額で人手に渡ってしまう。これもまた時代の流れということであろうか。昭和を彩った俳優たちが次々世を去っていく今、「遺品の整理」という名目で、こうした出品はこれからも増えていくのだろう。
posted by taku at 22:04| 特撮 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする