2009年09月09日

ある訃報

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※2014年7月29日に追加記事を書きました ≫ 以倉いずみさんを偲ぶ

今夜21時から、渋谷のユーロスペースで「いくつもの、ひとりの朝」の上映があります。劇場のスクリーンで大写しになるのは約3年ぶりですが、この映画に美鈴(メイリュン)役で出演した女優の以倉いずみさんが、8月27日、肺がんのためお亡くなりになりました。謹んでご冥福をお祈りします。

第一報は、9月2日の夜。俳優の加藤忠可さんからの電話でした。
「久しぶりですねえ、お元気ですか」
と応じたら、いつになく深刻な声で、
「いや、もう大嶋さん知ってるかも知れないけど、以倉ちゃんが…」

思わず「え!」と、自分でもびっくりするような声が出てしまいました。2年ほど前、少し体調を崩したとかで、尼崎のご実家に戻っていたことは知っていましたが、まさか、こんなにあっけなく不帰の客になってしまうとは、夢にも思いませんでした。

以倉さんとは、2003年にホームページで写真のモデルをやってもらったのを振り出しに、上に書いた「いくつもの、ひとりの朝」、ボイスドラマ「水のほとり」、DVD演劇「実験室」、朗読劇「崖」と、全部で4つの作品に出演してもらいました。いろいろな現場での彼女の姿が、次々頭に浮かんできます。春まだ浅い鎌倉、長野県上田市の無人駅、さいたま芸術劇場のステージ、そして荻窪と新宿の昭和テイストな建物…。

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自分より10歳以上も若い人が亡くなるというのは、何ともやり切れないものです。ただ本当のことを言うと、どうもいまだに実感が伴わず、悲しいとか淋しいという感情も湧き上がってきません。何ともしっくりこない気分です。私には彼女は今も、尼崎でご両親と生活を続けているようにしか思えないのです。

しかし時間とともに、この喪失感は徐々に大きくなっていくのでしょう。今朝ほど、以倉さんの女子高時代の同級生だったという方から、「以倉さんの追悼上映会を母校で行うことを考えているのですが、許可関係はどうすれば…」という問い合わせのメールが届きました。その文面に「遺作」という言葉を見つけた時、「そうか、彼女はもういないのか」と、改めて重い事実を突きつけられた気がしました。

その同級生の方によると、高校時代の以倉さんはいつも明るく、「バレンタインデーの日の休み時間には、チョコを渡す後輩が後を絶たないほどの人気者」だったそうです。さもありなん、という気もしますが、私の印象では彼女はグループの中心人物というよりはムードメーカーで、いつも場の雰囲気を敏感に察知して適切に行動する、細かい心配りができる人でした。だから人望もあり、所属事務所でも後輩たちのよき相談相手だったようです。その反面、自分からはなかなか他人に悩みを打ち明けられず、もやもやを一人で抱え込んでしまうところがありました。女優であるならば、あまり周囲のことなど気にかけず、自己愛を前面に押し出し、もっと奔放に振舞ってもよさそうなものですが、根が真面目な以倉さんには思いもよらないところだったようです。私はそのことを、酒の席で彼女に指摘したことがあります。
「以倉さんは優等生すぎるんだよ。女優なんてのは、もっと不良じゃないと…」

jikkenshitsu.jpg 「実験室」の一場面

それは、「実験室」という作品の打ち上げの席でした。彼女は流行作家と不倫関係になる子持ちの人妻を演じたのですが、私には彼女の演技が、どうにも折り目正しすぎるように思え、そんな「暴言」を吐いてしまったのです。それを聞いた時の以倉さんの、何とも言えず悔しそうな表情が忘れられません。よく見ると、両の瞳には涙が浮かんでいます。
「そう言われてすぐに変われるくらいなら誰も苦労はしません」
彼女の目は、無言のうちにそう訴えているようでした。

しかし、今改めて思うのは、優等生的ではあったかも知れませんが、以倉いずみには以倉いずみにしか出来ない演技というのがたしかにあったということです。「実験室」に関して言えば、物語がかなりドロドロしたものであった分、彼女のその初々しさが、作品全体を中和させる役割を担っていたようにも感じられるのです。もしも、病魔に冒されることなく、末永く演じる仕事を続けていくことが出来たなら、その真面目な人柄と人生のキャリアとが相まって、今では貴重な、品と華のある女優に成長したかも知れないのにと、悔やまれるばかりです。

以倉さん、あのころも今も、いろいろ好き勝手を言って(書いて)しまってごめんなさい。でも、あなたの出演してくれた作品は、これからも残っていきます。どうぞ、安らかにお眠り下さい。
posted by taku at 18:07| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする