2015年04月22日

立ち退きの記(3)

【前回までのあらすじ】
2013年10月。自然環境に恵まれた賃貸住宅「向ヶ丘ハウス」で快適な日々を過ごしていた私(大嶋)は、ある日突然、不動産会社から「分譲住宅建設のため、立ち退いて欲しい」という申し出を受ける。これも時代の流れかと観念し、12月のなかばに藤沢の5階建てマンションに引っ越したのだが、そこには大きな誤算が…。

この「立ち退きの記」もこれで3回目ですが、こういうプライベートな体験を長々書くのもどうかと思うので、以下、ごくごく簡単にことの次第を記します。

新居となった藤沢のマンションは、実は音漏れがひどかったのです。越した翌朝から、私は隣室の住人の寝起きの音で叩き起こされました。隣りには小学校と中学校に通う男子がいて、6時40分くらいから行動を開始するのですが、窓を開けるのもドアを開けるのも、とにかくけたたましい! 普段8時半から9時の間に起床する私としては、2時間以上早く眠りを断たれるのは苦痛以外の何物でもありません。
前に住んでいた「向ヶ丘ハウス」は木造だったのにも関わらず、隣室の音はほとんど聞こえませんでした。それがこちらは鉄筋コンクリート造のくせに音が筒抜け。まったく理解不能ですが、ネットでいろいろ調べたところ、マンションというのも実はピンキリで、音が異常に伝わる物件も結構あるようです。

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音漏れマンションのベランダから見た朝焼け(2013年12月17日)

睡眠は人間の健康や文化的な生活には不可欠です。かの水木しげる御大も、手塚治虫や石ノ森章太郎に向かって、
「アンタら睡眠をバカにしちゃいけませんョ。眠っている時間分だけ長生きするんです。幸せなんかも睡眠力≠ゥら沸いてくる。睡眠力≠アそが全ての源ですッ! フハッ」
と一席ぶっているくらいです(「睡眠のチカラ」より)。

とにかく、朝のまどろみを冒されないよう、耳栓や、新たにネットで購入した防音用のイヤーマフで「防御」を試みましたが、そんなものをつけて寝るというのもこれまた安眠とはほど遠く、新居に移ってわずか2週間後には、「ここはもうアカン」という結論に達しました。
そう決めたら、再度の引っ越しは早い方がいい。下手に荷ほどきをしてしまうと二度手間になるからで、段ボールの荷物はほぼ積んだままの状態をキープし、ふたたびネットで賃貸物件を探し始めました。今回はマンションという表看板にだまされてひどい目に遭ったので、次はもうマンションは候補からはずし、かといって、またハイツやアパートというのも進歩がないので、初めて一戸建て限定で探し、1月の下旬、藤沢よりは実家に近い小田急線のとある駅に頃合いの物件を見つけ、2月26日、再度引っ越しを行いました。結局藤沢のマンションにいたのは、わずか75日(「人の噂も…「のたとえと同じ日数です)。でも、その75日の間に、せめて鎌倉周辺を満喫しておこうと、長谷の大仏、長谷観音、鎌倉湖周辺、大船観音、円覚寺、瑞泉寺、甘縄神明宮、鎌倉文学館などを訪れました。

いやはや、こんな短期間に2度も引っ越しなんかするもんじゃありません。電気、ガス、水道、電話(インターネット)などを止めたりつなげたり、移転通知を出したり、近所に挨拶したり、そういった面倒な雑用を、2ヵ月ちょっとのうちに2回もやるなんて、本当にロスが多すぎます。それから、言うまでもないことですが、最初の引っ越しの時は、敷金礼金前家賃、運送業者の支払いまで、すべて不動産会社がやってくれましたが、二度目は100パーセント自己負担です。「引っ越し費用をすべて出してもらってラッキー」と思っていたのもつかの間、結果は、自分の意志で引っ越しをしたのと同じことで、それ相応のお金が懐(ふところ)から消えていきました。

それから約1年。さすがにもう当分住み替える気はありませんが、今住んでいる一戸建ても、それほどのストライク物件という感じではなく、あと数年で次の場所を見つけることになりそうです。現在のわが家は大変な住宅密集地で、すぐ前は道路、左右と後ろは家に囲まれており、それぞれのお宅の生活音が、思った以上に聞こえてきます(2、3歳児の泣き声やわめき声はかなり厳しいものがあります)。一戸建てでも油断はできないということを、住んで初めて知りました。やはり建て方だけでなく、周辺の環境にももっと気を配って物件を探さなければいけないと肝に命じた次第です。

それにつけても思い出すのは、広々とした庭に抱かれた「向ヶ丘ハウス」ののどかさと静けさです。
つい先日、久しぶりで「向ヶ丘ハウス」の跡地を訪ねてみたのですが、何とそこは、建蔽率ギリギリに建てられた全24世帯の3階建てマンションに姿を変えていました。以前不動産業者から渡された書類には「分譲住宅」という言葉が入っていたので、私はてっきり3軒くらいの一戸建てが建っていると思っていたのですが…。何かの事情で計画変更したのでしょうか。

敷地内はすっかりコンクリートで整地され、そこには1本の木も植わってはいません。わずか6世帯だったハイツが24世帯のマンションになったのですから、樹木の生息する余地などあるはずもないのですが、何とも無機質な空間で、お隣りのソメイヨシノも、花の季節を過ぎたせいもあってか、ずいぶん小さくなったように見えました(マンション建築にともない、枝を剪定したのかも知れません)。

この場所で、季節の移り変わりを無言のうちに告げてくれた百日紅もレンギョウも白木蓮も椿もキンモクセイも、どこに消えてしまったのでしょう。すべては一睡の夢のようです。本当に自分はこの場所で7年も寝起きをしていたのだろうかと、不思議な気持ちでたたずんでいました。
しかし、今や縁もゆかりもない建物の周囲で、いつまでもウロウロしていては不審者扱いされるだけです(入り口にはご他聞に漏れず警備会社のステッカー)。

すべてのものこうしては形を変え、やがて滅んでいくのだなあと、いささかしんみりした気分で、新緑の葉が揺れるソメイヨシノの下をくぐり、帰路に着きました。
posted by taku at 14:24| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする