2015年09月14日

ハッピーバースデー

前回まで、赤塚不二夫の生誕80周年を勝手に記念して、赤塚不二夫と「フジオ・プロ」関連の知られざる作品をいろいろと紹介してきたが、今回は最終回ということで、「天才バカボン」が初めてアニメ化された1971年に発売のソノシートつき絵本を紹介してみたい。現在ほとんどオークションなどにも出回っていないようで、それなりにレア度は高そうだ。オールカラーの絵本に、主題歌とドラマ「はじめちゃんのたんじょう」が収録されたソノシートがついている。

20150914_01a.jpg
『テレビマンガ・うたとおはなし 天才バカボン』(朝日ソノラマ)

絵は赤塚本人ではなくフジオ・プロの手によるものだが、なんと脚色は辻真先。アニメ本編では3クールから参加するベテラン脚本家が、この絵本でハジメ誕生編(しかも内容はかなりオリジナル度高し!)を手がけている。さらに特筆すべきは、声優がテレビ放送とは一部異なっていること。バカボンは山本圭子、ママは増山江威子で変わらないものの、なんと、パパは雨森雅司ではなく富田耕生が担当しているのだ。富田といえば、「平成天才バカボン」のパパの声の人だが、こんなに早い時期からパパを演じていたとは! そしてハジメは貴家堂子ではなく野村道子。私はテレビ放送が始まった直後にこの絵本を購入したので、ソノシートを聴いて、テレビとの違いに大変違和感を抱いたものだ。富田耕生の声は「もーれつア太郎」のブタ松などですでに聞き覚えがあったが、パパ役にはあまり合っていないように思い、テレビの雨森雅司の方に圧倒的に好感を持ったものである。

※ソノシート音声はこちら(一部抜粋・mp3ファイル)

どうしてこういうキャストの不一致が起きたのだろうか。考えられるのは、主題歌はすでに録音済みだったが、アニメ本編の方は、まだキャストが100パーセント確定していなかった時期に、このソノシートが先行して制作されたということである。とすると、少なくとも富田耕生はパパ役の候補者だったわけで、「平成〜」での起用も、かなり前からの下地があったことになる。

20150914_01b.jpg

さて、アニメ第1作の「天才バカボン」は、パパが植木屋だったり、バカボンの学校描写が多かったりと、原作を改変した部分が多々あり、赤塚本人は気に入っていなかったそうだが、私などは、全体にほのぼのした雰囲気の第1作の方が、アナーキーな原作に寄せて作られた「元祖」よりお気に入りである。「魔法使いサリー」「ゲゲゲの鬼太郎」「サザエさん」といった名作アニメを多数手がけた雪室俊一や前述の辻真先などが脚本を書いていて、起承転結がきっちりしていたのも、安心して見ていられた理由かも知れない。

しかし、そんな「ほのぼの系」の第1作アニメが放送されるころ、作者の赤塚自身にはすでにある兆候が現れ始めていた。

20150914_02.jpg

『少年マガジン』1971年38号。氷室洋二とマス大山にひげを描いたのは小学校時代の私です。

20150914_03.jpg

この回は、「テレビ化決定記念」と銘打った通常の倍近い30ページの大作だが、その扉がいきなりこれ。
左下には、酒瓶を片手にペンを握る赤塚の姿が。

20150914_04.jpg

内容も、暴力団のボスが深刻なアル中で、酒が切れると重篤な禁断症状を起こし、周囲を大混乱に陥れるというもの。バカボンのパパも、中盤では多少の見せ場を与えられているが、最終的には巻き込まれキャラの一人でしかなく、この話の主役は、まぎれもなくこの暴力団のボスである。酒が切れた時の錯乱描写に妙なリアリティがあるのは、すでにこのころから赤塚自身にもその兆候があったからだろうか。

20150914_05.jpg

20150914_06.jpg

ボスは禁断症状を起こすと人間がけだものの姿に見えて錯乱するのだが、もともと犬そっくりの顔だった警官を見た時「あっ、あなただけ人間」と正気を取り戻し、ピストルを捨てる。そして部下たちによって独房に入れられてしまう。後年、赤塚もアルコール依存症による幻覚がひどくなっていたことを考えるとこのあたりの展開は笑えない。というより、まるで未来の自分を予見していたようで、背筋がぞっとする。

20150914_07.jpg

最後は、ほろ酔い気分のバカボンのパパが、夜店に出かけてお面をかぶって戻ってきたバカボンとハジメを見て幻覚と勘違いし、「わーっ もうお酒は やめたのだ!!」と叫ぶという明快なオチ(欄外アオリに「幻覚症状でメロメロにならないうちに禁酒してネ」とあるのは、担当記者から赤塚への密かなメッセージか?)。
このパパのように、赤塚本人もどこかで酒の怖さに気づき、アルコールを遠ざけていれば、彼の後半生はまったく違うものになっていたかも知れないのにと残念に思う。

しかし、亡くなった人の人生について今さら外野があれこれ言っても始まらない。人生の後半がほぼ酒びたりだったにせよ、彼は前半生だけで、およそ余人に真似のできない金字塔を打ち立てたのだ。

今日は赤塚不二夫の生誕80年を祝う記念すべき日である。人間はいつか必ず死ぬが、作品は永遠だ。生身の彼は72歳で死に、それ以上年を取ることはないが、心に残る作品をたくさん残したことで、こうして死んだあとまで多くの人がその誕生を祝福してくれる。これで、いいのだ。
posted by taku at 01:18| 漫画・アニメ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする