2017年03月23日

『昭和声優列伝』

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先月、勝田久さんが『昭和声優列伝』という本を上梓された。勝田さんといえば、「鉄腕アトム」のお茶の水博士(の声)としておなじみだが、実は鎌倉アカデミア演劇科の第一期生で、5月に公開される私の映画『鎌倉アカデミア 青の時代』にもインタビュー出演していただいている。

さて、この『昭和声優列伝』、なかなかに興味深い一冊で、第一部の「そして声優が始まった」は勝田さんの幼少期から声優になるまでの半生記、第二部の「声優列伝」は、以前『月刊マイアニメ』に連載された声優35人の証言(勝田さんが聞き取りを行い文章に起こしている)をまとめたものだ。

第一部については、終戦時の状況や、鎌倉アカデミアでの思い出など、インタビューでうかがったお話もいくつかはあったが、ほとんどが初めて知る内容で、出演していた東宝の『鐘の鳴る丘』を地方公演途中、労働争議のために降ろされた話や、狭き門を突破したNHK東京放送劇団の研修で、スタニスラフスキー研究の山田肇教授を講師にと所望し実現したが、内容が高踏的すぎてほかの研修生には不評で、最後には山田教授とふたりきりのゼミのようになってしまった話、名調子として知られる「サスケ」のオープニングナレーションは、実は担当ディレクターと意見の相違があり、会心の出来とは思っていなかったという話など、印象的なエピソードも多い。

また、さすが「声優」の草分け世代の方だけあって、用語の使い方がきわめて正確で、その説明もとてもわかりやすい。

…スタジオ内のスクリーンに映写、スタジオ内のマイク前で映しだされた画を見ながら、その演技者の唇を掴んで、それに台詞を当てていく。その方法をアテレコといった。映画撮影のとき、音声部分をあとで録音する方法をアフレコというので、声優の場合は外国語に日本語を当てる方法だからアテレコと呼ばれるようになった。(76ページ)

最近では「アフレコ」と「アテレコ」を混同して使う若い世代が増えているように思うが、上の文章を読めば違いは明白である。具体的に言えば、「ウルトラマン」や「仮面ライダー」など、撮影現場に録音部がいないフィルム制作の作品で、俳優自身が自分の演技にあとからセリフを入れるのがアフレコ、「奥さまは魔女」や「スパイ大作戦」などの海外ドラマに、日本の俳優(声優)がセリフを当てるのがアテレコである。

さらにいえば、日本に「声優」なる職業が生まれたのは前述の海外ドラマが日本に輸入されるようになったためである。

昭和32年ごろから、アメリカのテレビ映画が輸入され、日本語版にして放送されるようになった。いわゆるアテレコ番組の誕生である。輸入されるテレビ映画の本数が増えるにしたがって、若い舞台俳優も、にわかに忙しくなってきた。1秒間に24コマ、あっという間に流れていくフィルムの動きに合わせて、日本語をピタリと当てていく仕事には、鋭い反射神経と演技力、正確な標準語をしゃべることが必要で、若い俳優にはうってつけの仕事だったのだ。(中略)後に、この俳優たちは声優と呼ばれるようになった。(132ページ)

これは、野沢雅子の項で書かれた文の抜粋だが、「声優」誕生に至る経緯が、実に簡潔にまとめられていると思う。勝田さんの文章は、30年以上も勝田声優学院で後進の指導に当たってきたからか、大変にわかりやすく、同時に、自分たちがしてきた仕事がどういうものだったかを、きちんと後世に伝えていこうという意思が感じられ、大いにシンパシーを感じつつ読み進めることができた。

そして第二部の「声優列伝」。これは、1963年生まれの私にとっては、ド真ん中すぎるというか、まさに鳥肌もののラインナップである。

1963年というのは「鉄腕アトム」の放送開始の年であって、したがって私は「アトム」をリアルタイムで視聴した記憶がほとんどない。だからお茶の水博士というキャラも、正直いって今ひとつなじみが薄いのである(世代のなせる技です。勝田さん、ごめんなさい)。しかし、この「声優列伝」に名前を連ねた面々は「アトム」以降のアニメや特撮で活躍した人が多く、私の幼少期のお気に入り作品の、いわば常連ばかり。ここに挙がった声優の9割は、名前を見ただけで、反射的にその声が耳に浮かぶくらいだ。富山敬といえば「タイガーマスク」の伊達直人だし、野沢雅子は「タイガーマスク」の健太と「ゲゲゲの鬼太郎」だし、内海賢二はサリーちゃんのパパか「黄金バット」のマゾ、富田耕生は「もーれつア太郎」のブタ松か「マジンガーZ」のDr.ヘル、森功至なら「ガッチャマン」の大鷲の健か「キューティーハニー」の早見青児…といった具合で、次々キャラクターの顔と声が脳裏によみがえる。たてかべ和也大平透はこのブログで追悼文を書いたくらい思い入れがあったし、納谷悟朗(「仮面ライダー」のショッカー首領)、小林清志(「宇宙猿人ゴリ」のゴリ・初代)、柴田秀勝(「デビルマン」の魔王ゼノン)とくれば、悪の組織のラスボス オンパレードである(これに飯塚昭三が加われば完璧の布陣)。

そういった人たちの多様な生い立ちや人生の浮沈が、実にくわしく書かれているのだ。納谷悟朗は一時ヤクザの世界に足を踏み入れていたとか、内海賢二は八奈見乗児の新婚家庭に居候したことがあるとか、広川太一郎は、あのコミカルな芸風とは裏腹に、生涯フリーランスを貫いた一匹狼だったとか、田の中勇の手作り幕の内弁当は絶品だとか、シリアスな話もあれば笑える話もあり、それぞれの声をイメージしながら読み進めると、味わいもひとしおである。勝田さんはご自身が優れた演者であるだけでなく、相手の話を巧みに引き出す名インタビュアーでもあったのだなあと、あらためて感嘆した次第である。
(声優諸氏の敬称は省略させていただきました)


昭和声優列伝 (お茶の水博士の声優 勝田久が贈る) -
昭和声優列伝 (お茶の水博士の声優 勝田久が贈る)
posted by taku at 12:00| 鎌倉アカデミア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする