
週末、『特撮秘宝 vol.7』(洋泉社)が編集部から届く。噂には聞いていたがとんでもなく「濃ゆい」本である(なぜ編集部から届いたかは後述)。
まずテキストの量(すなわち情報量)がすごい。新聞でも雑誌でも高齢者に配慮してどんどん文字が大きくなるこのご時勢に、まるでルビのような小ささの活字が二段三段(時には四段組み)で「これでもか」と並んでいる。最近老眼が進み、眼鏡を作るかどうかで日々悩んでいる私にとっては、読み進めるのにかなりの困難がともなうが、興味深い記事が目白押しで、これを読破するために、いよいよ老眼鏡を作るか、と本気で考えたりする(実は一ヶ月前に眼科を受診し、眼鏡の処方箋はもらっているのだが、面倒くさくてそのまま放置しているのだ)。
そして、テキストに負けず劣らずの画像の量。アゴンの未公開写真をはじめ、見たことのないレアな写真がこれまた「これでもか」と誌面に踊っている。とにかく特撮愛に溢れまくった一冊で、その同人誌的というべき無尽蔵のエネルギーは、かつて愛読していた1980年代の『宇宙船』(朝日ソノラマ)を思い起こさせる。これだけの濃度の本をたった4人の編集スタッフで作っているというのもすごい。
圧倒されてばかりいても始まらないので少しだけ内容を紹介すると、今号のメインは、元祖ゴジラ俳優・中島春雄の追悼特集。これが全体の約半分を占めており、日本が世界に誇る特撮スーツアクターの数々の作品における勇姿、本人のインタビューや対談、知られざる生涯、評論、関係者の追悼コメントなど、これ以上のコンテンツは考えられない、というくらいの充実した内容。中でも友井健人氏の「鎮魂 中島春雄と戦友ゴジラ」は1929年生まれの中島の一生を、昭和史―戦争との関わりの中で捉えた評伝さながらの論考で、大著『怪獣人生 〜元祖ゴジラ俳優・中島春雄』の構成を務めた友井氏ならではの、顕彰と検証が並び立つ名文だと思う。

ちなみに、先日『鎌倉アカデミア 青の時代』の上映会でご一緒した加藤茂雄さん(俳優・演劇科1期)が、東宝の大部屋時代の仲間ということでコメントを寄せているほか、中島がメインゲストで出演したドラマ『太陽のあいつ』で監督を務めた岩内克己監督(演劇科1期)のインタビューも掲載されており、鎌倉アカデミア出身の方々の名前が随所に見えるのも嬉しい(さらに言えば『太陽のあいつ』の音楽はいずみたくで、この人も演劇科の1期)。
そしてもうひとつの目玉というべきが、『帰ってきたウルトラマン』のいわゆる「11月の傑作群」についての再検証。ここらへんの話題になるとわからない人にはさっぱりわからないと思うのだが、ひとことで説明すれば、『帰りマン』11月放送分には秀作傑作が多い、ということ(それにしてもこの本では絶対に「ウルトラマンジャック」などという呼称が出てこないのが心地いいね)。3本のシナリオが収載されているほか、「悪魔と天使の間に‥‥」でゼラン星人の化けた少年を演じた永吉健太郎氏と、「落日の決闘」でメインゲストの少年役だった松原和仁氏の大変レアなインタビューも掲載されている。本当によく見つけてくるものだと感心することしきりである。
さてさて、そんな「11月の傑作群」の1作「許されざるいのち」と、12月放送ではありつつ傑作群の中に加えられることが多い「残酷!光怪獣プリズ魔」の特撮撮影現場を見学した当時の小学生が、47年前を振り返ったインタビューがこちら。

197X年の怪獣少年 大嶋拓
まあ、そういうわけで、最初に「『特撮秘宝vol.7』が編集部から〜」と書いたのは、この号にインタビューを載せていただいたからなのである。

諸事情により掲載されなかった貴重な対面ショット(菊池【現・きくち】英一氏と)
インタビューはトータル5ページ。全288ページの本で5ページも使っていただき、申し訳ないような、しかし光栄でもあるような。内容については、だいぶ前に自分のホームページにも載せたことがあるのだが、一人で思い返して文章に書くのと、実際にインタビュアー(前述の友井健人氏)と作品の映像を鑑賞しながら話すのとでは想起の仕方がだいぶ違うことに気づいた。詳しくは、是非インタビューを読んでいただきたいのだが、ひとつ特筆すべきは「許されざるいのち」に登場する合性怪獣レオゴンについてである。このレオゴンは、着ぐるみのほかに爆破用の人形(発砲スチロール製)が用意されていたにも関わらず、本編では使用されていない。それがいかなる理由によるのか、長い間「解けぬ謎」だったのだが、今回、名インタビュアー友井氏のおかげで、ひとつの推論が導き出されたのである。しかも奥ゆかしい友井氏は、最初の書き起こし原稿では、あたかも私がすべて自分で気づいたように書いてくれたので、そこだけは、「友井氏の示唆があればこそだった」とわかるように修正してもらった。思うに、前述の『怪獣人生』があれだけ充実した内容になったのも、友井氏の丹念な聞き取りと豊富な想像力に基づく示唆によるところが大きかったのではないだろうか。私も『鎌倉アカデミア 青の時代』の製作において、かなりの数のインタビューをこなしたつもりだったが、取材相手の「記憶の深層」に切り込むには、もっともっと丁寧な聞き取りと的確な示唆とが必要だったのではないかと反省することしきりである。
というようなことにまで思いを致した『特撮秘宝vol.7』。ほかにもタケダアワーで放送が計画されていたクレイジー・キャッツ主演番組のパイロットフィルムとか、『タイムボカン』や『少年探偵団(BD7)』などでもなじみ深いスキャニメイトの解説とか、とにかく、夜を徹しても読みきれないくらい充実した1冊です。ご興味の沸いた方は、是非お手に取ってみてください。