2020年12月14日

世紀の大発見!『現代コミクス ウルトラマン』後日譚(2)

前回につづき、1966〜67年に現代芸術社から刊行された「ウルトラ」関連書籍の原画等を紹介していきたい(前回記事はこちら)。

まずは『ウルトラマンカード』に収載されたイラストの数々。前回紹介できなかったものを一気に公開。最初の6枚は「ウルトラマン」の美術デザイナー・成田亨自身による貴重な直筆画である。

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ミイラ人間とウルトラマン(デザイナー権限でカラータイマーは無視)。

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シュールな形のブルトン。「アンドレ・ブルトン」より命名。

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赤い怪獣、火炎を吐くバニラ。

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対する青い怪獣アボラスは、何でも溶かす溶解泡を吐く。

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日本アルプスに出現したギガス。

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ギガスと対戦したドラコは彗星ツイフォンより飛来。

成田の描く怪獣は描線も細く、絵画というよりイラストと呼んだ方がぴったりくる感じがする。

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ここからの3点は藤尾毅の画。前回のジラースもそうだったが、藤尾の描く怪獣はまさに「獣」の生々しさに溢れており、成田のグラフィカルな筆致とは対照的。第1話に登場のベムラー。

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ネロンガと戦うウルトラマン。

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モングラーと戦うウルトラマン。モングラーは「ウルトラQ」の怪獣なので、実写作品にこうしたシーンはない。まさにドリームマッチ。『ウルトラマンカード』からはここまで。

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『ウルトラマン 決定版!怪獣カード』より「ウルトラQ」のゴロー。画は小林弘隆
ちなみに小林弘隆は昭和初期に「挿絵界の三羽烏」と謳われた小林秀恒の次男で、そのご子息・小林秀樹さんもイラストレーターという三代にわたる絵師の家系。

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『ウルトラマン 決定版!怪獣カード』より「ウルトラQ」のタランチュラ。童話の挿絵のような独自のタッチは河島治之

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「ウルトラQ 宇宙指令M774」フォノシート実物(上)と、その原画。テレビでは見られないボスタングの雄姿。

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『世界大怪獣カード』の表紙。

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原画は前村教綱によるもの。 描かれているのはガメラとバルゴンなのだが、パッと見ではそうとわからない。前村が本格的に怪獣画を描き始めるのはこれより少し後らしいので、まだ勘所をつかんでいなかったのだろう。

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『ウルトラマン 決定版!怪獣カード』の付録「怪獣パノラマ」。

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成田亨による原画はこちら。背景(燃えるビル街)は小林弘隆が担当。

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『ウルトラマン・怪獣 きりぬき仮面』の表紙。

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その原画。執筆は石原豪人。ウルトラマンの奇抜なポーズと全体の不安定な構図が幼児のころ気になって仕方がなかったが、今見てもやはり奇抜で不安定である。

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『キャプテンウルトラ画報』の表紙。

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その原画。こちらも執筆は石原豪人。リアリズムを超えた迫力というか、とにかく画全体から発せられる強烈なパワーに圧倒される。キャプテンの顔が西洋人風。

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フォノシート「テレビマンガのうた」のジャケット。

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その原画。井上英沖が『少年画報』に連載していた「サンダー7」をジャケット用に描き下ろしたもの(魔人ガロンと正太郎くんのパチモンにも見える)。

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『現代コミクス増刊2 ウルトラマン』1月号に掲載の「グリーンモンスの巻」の生原稿。岸本修によるもので、現在も単行本未収録。

『現代コミクス ウルトラマン』表紙シリーズ。

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7月号(サイゴ、シーボーズ)

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8月号(グビラ、ダダABC)

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特別増刊『ウルトラマン怪獣大全集』(ヒドラ、ネロンガ、ドドンゴ)。これらの原画3点はすべて柳柊二

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最後に、成田亨による掲載誌不明の恐竜イラスト。成田が実在の恐竜を描くのはかなり珍しいのでは?

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以上の原画や原稿はすべて、現代芸術社社長だった長嶋武彦氏(昨年10月に99歳で逝去)のご自宅の居間のテーブルで拝見し、その際に一眼レフカメラで撮影したものだ。スキャンしたわけではないので、よく見ると上下左右で明るさが微妙に違っている。立ち会ったのは武彦氏の次男で、現在鎌倉市議会議員をされている長嶋竜弘さん。

私とはひとつ違いの1964年生まれで、したがって初代「ウルトラマン」をぎりぎりリアルに知る世代に属する。そうした親近感もあって、かなり長時間におよぶ「開陳」となった(細かく言うと、訪問は2回。最初は鎌倉市川喜多映画記念館のM谷さんに連れられて行き関連資料の半分を拝見、その後、あらためて訪問し残りの半分を見て、主なものを撮影)。

ここで、長嶋武彦氏の経歴をご紹介しておこう。

長嶋武彦(ながしま・たけひこ)
1920(大正9)年4月20日、福島県会津生まれ。早稲田大学文学部西洋哲学科卒業。1945(昭和20)年、大学院に進みドイツ浪漫主義を研究。『主婦と生活』編集部に1年勤務の後、文芸図書の装幀を行うアトリエ(生活美術)の経営、雑誌(「富士」「週刊映画」)編集や長嶋書房を自営。1960年10月、現代芸術社を創設。フォノシート出版や一般出版を手がける。1971年から1986年まで、劇団木馬座の代表取締役を務め、児童劇の制作、脚本を担当。1989(平成元)年に第一詩集『雲母(きらら)』(現代詩人叢書第8集/檸檬社)、1991年に第二詩集『峡(はざま)』(近代文藝社)を上梓。2019(令和元)年10月28日逝去。享年99。

以上はおもに詩集の略歴からの抜粋だが、これを読んだだけでも、多彩な分野で精力的に活動された教養豊かな方だったことがしのばれる。亡くなる少し前までお元気であったと竜弘さんはおっしゃっていたので、もう少し早く消息がわかっていたら、お目にかかってお話をうかがえたのに…と残念に思う。

ちなみに、2014年4月に長嶋武彦氏の94歳のお祝いをした富樫宥太さんというミュージシャンのブログがこちら(どういう関係なのかは不明だが、武彦氏のことを「師匠」と呼んでいる)。

これを読むと94歳でなお矍鑠(かくしゃく)としていたことがわかる(加藤茂雄さんも顔負け)。さらに言うと、このブログを書いていた富樫宥太さんは1964年1月生まれで竜弘さんや私と同世代なのだが、なんと昨年の1月に55歳で急逝したそうである。師匠である武彦氏より9ヶ月も早かったのだから何ともやり切れない。

なお、現代芸術社でのフォノシート出版事業のことは、ご本人が当時を回想した文章(インタビュー?)をこちらのページで読むことができる(当然ながら長嶋家には当時のフォノシート出版物も大量に保管されている)。

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その文中に、

65年頃から、フォノシートにかげりがでてきました。大きくなった世帯を維持するために、いろいろなものを出しました。

という記述があるが、その「いろいろなもの」のひとつが、当時大人気だったウルトラマンを題材にした『現代コミクス ウルトラマン』や「怪獣カード」シリーズだったのだろう。

なお、このブログで紹介したのは、長嶋家に残っていたもののごく一部だが、『現代コミクス ウルトラマン』やそれ以外の「ウルトラ」関連出版物に関する限り、原画や原稿のたぐいはそれほど多くなかった。井上英沖による原稿はトータルでも10ページ以下だったし、成田亨の原画にしても、「怪獣カード」シリーズに書き下ろしたものの半分にも満たない。どうしてそんな不完全な形でしか残らなかったのか、それはもはや永遠の謎である。竜弘さんに言わせると、武彦氏はあまり過去のものには執着しない性分だったようで、逆に言えば、これだけでも手元に残ったのは、武彦夫人の配慮によるものだったのではないか、ということであった。

現在長嶋家では、竜弘さんと、「鳴神響一」のペンネームで精力的に小説を発表しているお兄様(武彦氏の長男)とで遺品の整理を進めているそうだが、それを後々どのようにするかはまだ決まっていないという。
「できることなら、どこかで一括して保存、あるいは公開などしていただいて、生前の父の業績を後世に伝えられるようになればいいと思うのですが…」
と竜弘さんはおっしゃる。私も作家の息子であり、父の業績をどう伝えていくかは人生における大きなテーマのひとつであるだけに深く共感したが、実際にはなかなか難しいところがありそうだ。とはいえ、竜弘さんは鎌倉市議で、お兄様も著述業。お二人の広範なコネクションを駆使すれば、私の心配などは杞憂で終わるようにも思う。とにもかくにも、鎌倉はまさに「秘めたる文化財」の宝庫であると、改めて思い知らされた出来事であった。

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長嶋家の窓から鎌倉市街を望む
posted by taku at 18:18| 特撮 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする