2021年03月30日

ルリ子をめぐる冒険(6)絵物語「緑はるかに」(中)

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前回までのあらすじ

片山ルリ子は、1年前から北海道に出張している父に会うため、父の会社の同僚・田沢とともに旅立つ。その途中、ルリ子は汽車の中で、チビ真という浮浪児と知り合いになる。北海道に着き、病気で衰弱した父と再会するルリ子。父は、「田沢は悪人で私の研究の秘密を盗もうとしている」とルリ子に告げ、秘密を隠した小箱をルリ子に託して息を引き取る。ルリ子は逃げ出す間もなく田沢に監禁され、連日、容赦ない責めを受けることに……

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ある朝、田沢はルリ子を連れて汽車で東京に向かう(「北海道にいるといろいろうるさいから」とのこと)。

一方、父の急逝を知った母は北海道に向かっていた(ルリ子が電報で知らせたらしいが、ずっと田沢に監視されていたのにどうやって電報を打てたのかは不明)。

ルリ子は駅弁の包み紙で鶴を折って窓から飛ばす。すると、それをたまたま駅の近くにいたチビ真が拾い上げ、汽車の中にいたルリ子に気づき、汽車に飛び乗り、「あ、いつかのお嬢さんだ!」と確認し、「一緒にいるのは悪い奴なんだな」と超速理解し、「火事だ!」と車内で叫び、その騒ぎに乗じてルリ子を連れ、走っている汽車から飛び降りる。こうしてルリ子は田沢の毒牙から逃れたのであった。

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すごい展開でしょ? これに比べると映画版なんて可愛いもんですよ。

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飛び降りたところは畑で、大した怪我もなかったが、ルリ子は足をくじいてしまう。また、飛び降りた拍子に落とした小箱のふたが開き「ブラームスの子守唄」が流れてきて、ルリ子は例の小箱がオルゴールであることを知る(ちなみにオルゴールの色は、映画では「緑はるかに」のタイトルにちなんで緑だが、原作では赤となっている)。

○ブラームスの子守唄(youtube)

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ちなみに、こちらが映画におけるルリ子とチビ真。

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一方、原作におけるルリ子とチビ真がこれ。

チビ真は、その名のとおり「チビ」という設定なのだが、中原淳一の描くチビ真はどうもそうは見えず(ルリ子とほぼ同身長)、しかもかなりの美少年。普通にお似合いの美男美女カップルに見える。このあたりの一連の挿絵を見ていると、もう、あとのガキ2人(チビとノッポ)はなしで、この美男美女の冒険物語にした方がいいんじゃないかという気がしてくる(残念ながら話はそれとは真逆な方向に進んでしまうのだが)。

その晩は「親切なお百姓さんの家」に泊めてもらい、2人はオルゴールをいろいろ調べるが何も発見できない。とにかく東京へ帰ろうと、ヒッチハイクで東京方面に向かうトラックに同乗。するとその中で、トラック助手が読んでいた新聞に「青函連絡線、機雷に触れて沈没!」の大見出し。死亡者欄にはルリ子の母の名前が……。

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まさに怒涛の展開。谷ゆき子の漫画みたいですが、この時代の少女小説って、こういう不幸のオンパレードが常套手段だったんでしょうね。

悲嘆に暮れるルリ子。チビ真はそんなルリ子を励まし、東京郊外の隠れ家(防空壕)に連れていく。待っていたのは仲間のデブとノッポだった。
彼らはすべて孤児だが、映画とは違い、孤児院から脱走したわけではなく、最初から自立生活を営んでいる様子(学校に行っているかどうかは不明)。

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こちらが映画のデブとノッポ。

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原作はこれ。
先ほどのチビ真もそうだったが、中原淳一の描くデブとノッポは、それほど「デブ」でも「ノッポ」でもなく、おまけにかなり整った顔立ちなので、3人ともほとんど見分けがつかない。

一方、田沢は東京のアジトで、2人の手下、「メッカチの大入道」と「松葉杖をついた、小人のように背の低い男=ビッコ」に、ルリ子奪還の指令を出していた。うーん。いろいろと時代を感じさせる表現ですな。

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映画の大入道とビッコはコミカルな風体だったが、

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中原淳一の描く2人の手下は、とにかく不気味で恐ろしい(石原豪人の絵に通じるものを感じる。美少女や美少年以外のキャラはこうなってしまのだろうか)。

大入道とビッコは、紙芝居屋に5万円の賞金をかけてルリ子を探させたり、ピエロの扮装をして町を探索したりする(このあたりの描写は映画にも取り入れられている)。

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ピエロの扮装をした大入道とビッコ。映画だとコミカルなのに、

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中原の描くこの2人は、夢に見そうな凄まじい形相である。

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この不気味な悪人コンビは、一度は三人組と一緒に縄跳びをしていたルリ子を発見するのだが、チビ真は「この子はルリ子じゃなくて『トン子』」だと言ってシラを切る(思いつきにしてもすごい名前)。大入道とビッコはルリ子の顔を正確に知らないため、その場は引き下がるが、チビ真は「もうここは危険だ」と、すぐに隠れ家を変えることを決める。原作のチビ真は大変なリーダーシップの持ち主。

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引越しの準備に取りかかる三人組。ルリ子は三人組の、「ボロは着てても心は錦」的な魂の美しさに感激し涙を流す。

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上は連載30回、5月17日の紙面だが、その翌々日の5月19日、物語のすぐ右横に、「緑はるかに」の映画化を報じる記事が。

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「緑はるかに」映画化
ターキーの初製作で
作者・北條氏も協力申出る


本紙に連載中の北條誠と中原淳一のコンビによる「緑はるかに」は、この種の絵物語として始めての純情ものとして好評を博しているが、近く日活で映画化と決定、プロデューサーに転向したターキー・水の江滝子のプロデュース第一回作品として製作されることになった。(中略)その素材をさがしていたターキーがこれこそ≠ニばかりとびついたのがこの「緑はるかに」だった。たまたま原作者北條氏はSSK時代からのターキー・ファンで、学生時代は容ぼうもそっくりというのでターキーばりのヘアー・スタイルをしたというほど…。それだけに、映画化に際しては脚色協力を申出てターキーを感激させている。


結局この北條のラブコールは実を結ばず、脚本は井上梅次監督が担当することになるのだが。それにしても連載開始わずか1ヶ月にして映画化決定とは、ずいぶん段取りがいいような…。この記事では、映画の素材を探していた水の江滝子がたまたまこの絵物語を見つけた、ということになっているが、もしかしたら初めから映画化ありきの、いわゆる「メディアミックス作品」として企画されたのではないだろうか(同年8月からはニッポン放送でラジオドラマも始まるし、いろいろと手回しがよすぎるのだ)。

彼らの新しい隠れ家は、隅田川にかかる新大橋沿いに並んだ倉庫の影にある、半分壊れた掘っ立て小屋だった。その屋根の修繕のため、小屋にある物を全部外に出していたところ、通りかかったくず屋のじいさんが、そこにあったオルゴールを見つけ、無断で持ち去ってしまう。帰宅したじいさんはそれを孫たちに見せるが、孫たちに「おまんじゅうの方がいい」と言われ、古道具屋に30円で売り払う。

くず屋のじいさんがオルゴールを持ち去ったことに気づいた三人組はじいさんを見つけて詰問、古道具屋に売ったことを聞き出しそこに向かうが、オルゴールは売れたあとだった。その話を立ち聞きしていた大入道がチビ真を拉致してアジトに監禁、田沢はルリ子の居場所を言わせようとリンチを加えるが、チビ真は口を割らない。デブとノッポはチビ真を奪還しようとするが逆に捕まってしまい、ついにルリ子のいる隠れ家まで案内させられることになる。

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大入道たちに引っ立てられた三人組はその途中でくず屋のじいさんと遭遇、事情を察したじいさんは「こないだの罪ほろぼし」にと、あわてて隠れ家にいるルリ子にそのことを知らせ、ルリ子を川岸に停まっている小型船に隠す。ところがその船は出航してしまい羽田に着く。ルリ子は船の船頭さんに事情を話し、その家に2週間ほど厄介になることに。

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ここからルリ子と三人組は完全に離ればなれになる。連載開始が1954年4月で、このあたりの展開は6月。ようやく再会するのは10月下旬。物語は12月に完結なので、原作でのルリ子と三人組は、全体の半分以上一緒に行動していないのだ!

さて、チビ真たち3人は田沢たちのもとから何とか脱出。やがて古道具屋の店先で例のオルゴールを発見する(前の古道具屋で買った人が転売したということか)。三人組は靴磨きをして代金の1500円を貯め、買い戻しに店に行くが、すでにオルゴールは売れてしまっていた。買ったのは「35、6歳の女性」だと言う(このあたりの展開は映画でも踏襲されているが、原作では、ルリ子は靴磨きに参加していない)。

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一方のルリ子は、世話になった船頭さんのお得意様(かなりの資産家)の奥様がルリ子を引き取りたい、と言い出したため、京都に行くことに(まさかの展開。養子縁組など、法的な手続きはどうしたのか)。

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舞台は一転し、京都での豪邸暮らしが始まる。

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おばさま(養母)はやさしい人で、おじさま(養父)は海外赴任中で長期不在。

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愛犬のシェパード「ジュピター」と散歩した帰り、みなし児のマミ子と出会う。ルリ子のたっての希望で、マミ子もおばさまの家で一緒に暮らすことになる(もう何が何だか…)。

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ちなみにこちらが映画のマミ子。くりくりっとした髪型など、かなり原作に忠実な姿。

急に「妹」ができたルリ子は「お姉さん」としてバタバタしながらも充実した日々。

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ある日ルリ子は、マミ子にせがまれ、弥栄会館で行われていた視聴者参加の公開番組「あなたの歌」(NHKの「のど自慢」が元ネタか)に飛び入りで出演。赤面しつつマミ子とともに「子鹿のバンビ」を歌い、見事合格して賞品をもらう。

ちなみに日本におけるテレビ放送はこの前年、1953年に始まったばかり。放送局はNHKと日本テレビの2局だけだった。力道山、木村政彦組対シャープ兄弟のプロレス中継が行われ、何万という観衆が街頭テレビに群がったのはこの年2月の出来事。まさにテレビの黎明期である。掲載紙である読売新聞は日本テレビの関係会社なので、テレビの宣伝普及のため、こういう場面を入れることを奨励したのかも知れない。

なお、この物語では、ルリ子とマミ子が歌う様子が全国に流れたようなことが書かれているが、この当時はまだNHKは東京、大阪、名古屋の3局しか開局していない。 仙台、広島、福岡などの局が放送を始めたのが1956年、全国ネットの放送体制が整うのはそれよりさらに4年ほど先のことである。

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賞品をもらってご満悦のマミ子。ところが東京の喫茶店では大入道が、また、街頭テレビでは三人組が「あなたの歌」を見ていたからさあ大変。ルリ子が京都にいるとわかり、大入道たちも三人組も京都に向かう。

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三人組には京都に行く旅費などは当然なかったが、飛行場で映画スターの「石狩浩一郎」と遭遇し、彼に頼み込んで飛行機に乗せてもらう。

この「石狩浩一郎」、何かしら物語の展開に絡みそうな雰囲気を漂わせていたが、実際はただの捨てキャラであった。ただ気になるのは、そのネーミングがどうしても「石原裕次郎」を彷彿させること(しかもこの「緑はるかに」は水の江滝子の第一回プロデュース作品)。しかし、1954年には、裕次郎どころか、兄の石原慎太郎も、まだ作家デビューしていないので、ただの偶然ということになってしまうのだが……。

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テレビの反響は凄まじく、ルリ子とマミ子に関する問い合わせが放送局に殺到。

きのうのテレビで、かわいらしい、ルリ子とマミちゃんのすがたを見て
「一つ、うちの会社の専属スターにしようじゃないか」
と思ったのでしょうか。けさは早くから、ひっきりなしに、各映画会社、レコード会社の人が、つぎからつぎへと、住所をたずねてくるのでした。


これは記念すべき連載第100回(1954年8月6日掲載)なのだが、そんな物語のすぐ下に、

「緑はるかに」のルリ子役≠一般募集

の記事が載っているのが実に興味深い。

「一般人のルリ子がテレビで注目を浴び、映画会社などから問い合わせ殺到」というエピソードとシンクロするかのような「映画のルリ子役募集」の記事。あまりに出来すぎたタイミングで、映画製作サイドから原作サイドへ、何らかの要望があったように感じられる。先ほどの記事にあったように、原作の北條誠は学生時代からのターキーファンとのことなので、プロデューサー・水の江滝子のリクエストに、ノリノリで応えた、といったところだろうか。それにしても、こうした一連の流れをすべて水の江が画策したのだとしたら、話題作りにたけた、実に有能なプロデューサーとしか言いようがない。原作→映画化決定→ヒロイン募集、というプロセスは、角川映画の「野性の証明」(1978年)を20年以上先取りしている。

このヒロイン募集の反応は大きく、2千数百人の応募があったという。審査は第4次まで行われ、最終オーディション(カメラテスト)には「原作者」北條誠と中原淳一も審査員として参加、中原の目にとまった浅井信子がルリ子役に選ばれ、中原はヒロインのヘアカットや衣裳考証など、映画にも深く関わることになるのだが、そのあたりのお話は次々回以降に。

さて、京都に着いた三人組は、ルリ子の住所を訊くために訪ねた放送局の事務所で、何とルリ子の母と出会う(死んだはずなのに生きていた??)。

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実はルリ子の母は、乗船直前に腹痛になり、事故を起こした青函連絡線には乗っていなかったのだ。しかしすでに切符を買っていたため船客名簿に名前が載っており、それで死亡者扱いにされてしまったという(どうでもいい話だが、挿絵における京都のおばさまとルリ子の母のビジュアルが、顔も髪型も服装もまったく同じため、いささか混乱してしまう。せめて片方は着物でなく洋服にしてくれるとありがたかったのだが……)。

母は東京に戻ってからずっとルリ子を探し続けていたが、テレビでその姿を見て、急ぎ京都に来たのであった。そしてまた、古道具屋からオルゴールを買ったのがルリ子の母だったことも判明する。ルリ子の母と三人組は京都に逗留し、手分けしてルリ子を探すが、その行方は杳として知れない。

一方、当のルリ子は、そんなことは露ほども知らず……

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「変な男(大入道とビッコ)がお宅の住所を聞きにきました」と放送局から電話を受けたおばさまは、難を逃れるため和歌山&九州への旅行を思い立ち、ルリ子とマミ子を連れて出かけたが、その途中で車窓から淡路島を見たルリ子が、
「行ってみたいわ、あの島に……」
とつぶやいたことで行き先を淡路島に変更、有名な鳴門の渦潮をのんきに見物しているのだった(このあたりの行き当たりばったり感がすごい!)。

それなりの日数が経ち、旅費もそろそろ心細くなったため、おばさまは単身、京都の豪邸に戻るが、張り込んでいた大入道たちによって、使用人もろとも監禁されてしまう。

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「やい、いわねえな。どうしても強情はるんなら、一ついたいめを見せてやろうか?」

ルリ子の居場所を言わせようと、和服のおばさまに鞭を振るう大入道。ああ、これぞ「伊藤晴雨の責め絵」的世界。映画におけるお母様の鞭打ちはここから発想されたのか…?

一方、淡路島の宿屋に居残ったルリ子とマミ子は、おばさまが一向に戻って来ないため宿代も払えず、その支払いのため宿屋のホールの演芸ショーに出て歌を歌う。

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恥ずかしがりのルリ子にはかなりの苦行だったが、目立つことの大好きなマミ子はノリノリ。

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そしてこれが評判を呼び「スミレ劇団」の上野という男にスカウトされる。

「宿代は肩代わりする、全国各地を回れる、学校にも通わせる、君たちはたちまちスターだ」
などの甘言に惑わされ、「スミレ劇団」入りを承知するルリ子とマミ子。だが「スミレ劇団」の実態は場末の旅回り一座で、上野はとんでもない悪党だった。

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哀れ、ルリ子とマミ子はいつ果てるともない流浪の日々を送ることに……。

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よろよろと立ち上がって、またばったり……
「ふん、大げさなやつだ。いくらそんなことして見せたって、だまされんぞ。さあ歩け、歩かなけりゃこれだぞ」
ビュンと、ムチをふって見せました。

あ〜、またしてもこの展開。どうでもいいけど、悪漢が女を鞭打つっていう描写が多すぎません? まさに無限地獄の如し。
哀れルリ子の運命やいかに??

つづく(次で完結の予定)


posted by taku at 11:53| レトロ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする